甘いおしおき③

 本当におしおきするの? という疑問と、何をされるんだろうという不安に身を固くする。


 でも櫂人はそんな私に優しい笑みを向けた。



「そんな怖がるなって、痛いことはしねぇよ。……俺の想いを分からせてやるって言っただろ?」


「それは、聞いたけど……」



 具体的には何をされるのか分からないから、やっぱり不安にはなってしまう。


 緊張する私の横に座った櫂人はすぐに私を抱き寄せ、そのままベッドに横たわらせる。


 すぐに触れてくると思った櫂人の手は、まずはゆっくり私の髪を撫でた。



「この黒髪、好きだ」


「っえ⁉」


「サラサラで、触り心地も良くて、昔話に出てくるお姫様みたいだって……初めて会ったときから思ってた」



 優しく、慈しむように手櫛でかれてゆっくり私の鼓動が早まっていく。



「この髪の一本ですら、他の男に触らせたくない」



 真っ直ぐ私を見下ろしながら、ひと房髪をすくい上げてチュッと唇に触れる。


 優しさと色気が混在している姿に、鼓動は一気に駆け足になった。


 櫂人の節ばった手が今度は私の頬にそっと触れる。



「黒目がちで、白い肌。……ますますお姫様っぽくて、守りたいって思う」


「か、櫂人?」



 いつもより饒舌な彼に戸惑う。


 もしかして分からせてやるって、こうやって言葉と行動で伝えるってことなのかな?



「いいから黙って聞いてろよ」


「んっ」



 頬に触れていた手が顎を掴み、唇が塞がれる。


 リップ音を立てて少し離れると、唇の形を確かめるように舌が這う。


 そのまま優しくこじ開けられて、口内に侵入してきた。



「ふぁ……んっ」



 歯列をなぞり、私の舌を絡めとり、すぐに意識が溶かされていく。


 櫂人のキスは、こんな風にすぐに私を蕩けさせるから危険だ。


 でも、危険だけれど心地よくてあらがえない。



「っはぁ……可愛い」



 ひとしきり唇を味わって離れて行った櫂人は、私を熱っぽく見下ろして言葉を重ねる。



「俺のキスですぐにとろける恋華がメチャクチャ可愛い。今日みたいに自分で何とかしようって強がるお前が、俺の前でだけこんなに無防備になるの……すげぇ、クる」


「ふぇ? あっ!」



 顎にあった手が首筋を撫で、鎖骨をなぞる。


 くすぐったいような、むず痒いような……ゾクゾクと体の内側から駆け上がってくるものに自然と震えた。



「こんな風に感じやすいところも、たまらない。滅茶苦茶に抱きたいけど、大事にしたいからゆっくり触れていくな?」


「かい、とぉ?」


「そうそう、そういう蕩けて甘ったるい声もゾクゾクする。ほら、もっとその声聞かせろよ」



 お互いに息が荒くなっていく中、櫂人の手が胸の膨らみを撫でてわき腹を通り、太ももの内側へと向かう。



「ふぁ……ひゃんっ!」


「あーも、たまんねぇ。マジ可愛すぎ、もっとじっくり声聞きたいけど、すぐにでも滅茶苦茶に抱きつぶしたい」


「ふぇ⁉ か、櫂人?」


「ずっとこうしていたい。他の男の目になんか触れさせたくない。俺の腕の中だけに閉じ込めておきたい」



 櫂人のクセ。


 気持ちが昂ると、甘い言葉の羅列が始まる。


 溺れそうなほどの独占欲も混じって、私も胸がいっぱいで苦しくなった。



「か、いと……も、それくらいで……」



 耐えられなくて許してと懇願したけれど、何言ってるんだ? と軽く跳ねのけられる。



「おしおきだって言っただろ? まだまだこれからだぞ?」


「ええぇ……?」



 かくして、私の願いは聞き入れられず、その夜はひたすら甘い言葉に溺れるように抱かれた。


 櫂人のおしおきは、甘すぎた……。

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