甘いおしおき②

「櫂人……」


「……話は、大体聞いてた」


「え?」



 聞き返しながら見上げたけれど、櫂人は私を見ず目の前の女子たちを睨みつけている。



「金曜の夜、どうして恋華が茜渚街にいたのかと思っていたが……お前たちの仕業だったってことか」


「あ……貝光、先輩……」



 流石の彼女たちも、櫂人を目の前にしては怯む以外にない様子だった。


 凍てつきそうなくらい冷たい眼差しに、本当に凍ってしまったかのように固まっている。



「恋華は俺の大事な女だ。手を出すやつは女だろうと容赦はしねぇ」


「っ!」



 威圧感のある低い声に、私が言われたわけじゃないのに怖いと思った。


 睨まれて告げられた彼女たちは本気で恐怖を覚えたんだろう。


 一気に青ざめて、震えていた。



「あ……そんな……」


「お前らは恋華に今後一切近付くな。さっさと失せろ」


「っ!」



 青ざめながらもすがろうとしているのか、手を伸ばした一人を櫂人は冷たい目と声で突き放す。


 櫂人にここまで言われて諦めざるを得ないことに気付いたのか、言葉を詰まらせた一人を他の子たちが「もう行こう」と引っ張っていった。



「あとついでだから言っとくが」



 と、引き下がった女子からキヨトくんに視線を移す櫂人。


 何を言うのかと見守っていると、彼は味方になってくれたキヨトくんにとんでもないことを言い出した。



「男は半径一メートル以内に近付くの禁止な? コイツに触れていいの、俺だけだから」


「は、はい!」



 流石に睨みつけることはしなかったけれど、あからさまな牽制。


 黙って見ていたけれど、流石に味方になってくれた人にそれはないんじゃないかなと思って私は声を上げる。



「櫂人? キヨトくんは私の味方になってくれたんだし、そんな言い方は……」


「それとこれとは別。……それより恋華?」



 私の意見は軽くあしらわれてしまい、どうしてかいつもより低い声が私を呼ぶ。



「え?」


「お前さ、クラスのやつにいじめられてるってどうして俺に言わなかったわけ?」



 怖い、というほどではなかったけれど、不機嫌そうな声音に戸惑う。



「だ、だって。これは私自身の問題だし……」



 それに、櫂人のそばにいるのにふさわしいくらい強くなりたいって思ったし……。



「でも、今の話聞く限りだと原因は俺っぽいけど?」


「いや、でも……」


「ちゃんと守らせろよ」


「っ!」



 ぎゅうっと肩を抱く力が強くなり、耳に直接声が届く。


 私の意見は、そんな抱擁と共に押し込められてしまった。



「……ごめん」



 代わりに謝罪の言葉が零れ落ちる。


 守りたいから、守らせて欲しいから、こういうことも黙ってないで言って欲しい。


 そんな気持ちが腕から伝わって来たから……。



「ん、次なんかあったらちゃんと相談しろよ?」


「……分かった」


「……ちょっと間が開いたな? 本気で相談するつもりあるか?」



 櫂人に関係なかったら言わないかもしれない、と思った私はすぐに返事が出来なくて、櫂人にそれをしっかり指摘されてしまった。



「あ、あるよ⁉」


「……」



 今度はすぐに答えたのに、わった目でジーッと見下ろされる。


 なんだか、嫌な予感が……。



「そうか……言葉で伝えただけじゃあ実感湧かないんだな」


「え?」


「相談されないことで俺がどんなに辛いか……俺がどれだけ恋華を想っているのか、ちゃーんと分からせてやらないとな」


「え……あの、それはどういう……ひゃっ⁉」



 恐々と聞く私に、櫂人は耳のふちをかぷっとみ色気すら漂う声を耳に直接届けた。



「今夜は、おしおきだ」


「⁉」



 一体何をされるのか。


 酷いことはしないって分かっているけれど、櫂人の意地悪そうな笑みを見ると不安が募る。


 詳細を聞きたいような聞きたくないような気分でいると、「帰るか」と普段の様子に戻った櫂人は私を離した。


 でも完全に離れる前に手が繋がれ、そのまま引かれる。


 いつもの櫂人に戻ってホッとしつつ、夜には何をされるんだろうと色んな意味でドキドキした。



 その後は真っ直ぐ私のマンションに一度帰り、荷物を持って櫂人の家へ向かう。


 宿題などを片付けてから、薬を探してもらっている《朱闇会》の人たちと会って成果を聞いたり一緒に探したり。


 そうしているうちに日も落ちて、櫂人の家で簡単に食事を済ませて夜を迎える。


 ベッドの上で櫂人がシャワーを終えるのを待っていると、夜の色気を漂わせて彼が現れ言った。



「さ、恋華。おしおきの時間だ」


「っ⁉」

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