真人への相談②
「まあ、ゆっくり夕飯でも食べながら話そうか」
「そうですね。夕飯もう少しで出来ますから、ちょっとゆっくりしていてください」
「それなら私も手伝うよ」
「え、いえ。帰って来たばかりなのに」
「いいから。今日はほとんど新幹線での移動だったし、そこまで疲れているわけじゃないから」
休んでいて欲しいとは思っていても、料理を教えてもらいたいと思っていたこともあって結局押し切られてしまった。
「ん? この材料は……ミートソースを作っていたのかな?」
「はい。真人さんのミートソース美味しいので、覚えたくて……」
「いいよ、丁度良いから教えてあげよう」
「ありがとうございます」
内心やった! と喜ぶ。
櫂人が一昨日夕飯として出してくれたのもミートソーススパゲッティだったし、急な来客でも出せるくらいストックがあったってことだ。
ということは結構好きな料理なんだと思う。
だから真人さんの得意料理だっていうミートソースはぜひ教えてもらいたかったんだ。
スパゲッティ以外にもつかえるしね。
そうして一緒に作った料理を食べながら、真人さんは早速詳しい話を質問してきた。
「それで? その彼氏ってどんな人? 名前は?」
「あ、えっと……同じ学校の一つ上の先輩で、名前は貝光櫂人。海燕高校の人気者らしいですよ」
そこまで話してあとはどう説明すればいいんだろうと言葉が止まる。
吸血鬼ってのは当然言えないし、暴走族の総長をしているなんて言ったら心配するだろうし、怖い相手なんじゃないかと誤解されてしまいそうだし……。
いや、怖いのはある意味間違ってはいないのかもしれないけれど……。
なんて考えていると、「そうか……」と優しい声が聞こえた。
見ると、愛情あふれる嬉しそうな笑みを浮かべて私を見ている。
その顔が慈しみに溢れていて、真人さんの中性的な美しさもあってついお母さんみたいに思えてしまった。
いやいや、男の人なのに失礼だよね。
そこはお父さんって思っておかないと。
慌てて考え直していると、「良かったよ」と言葉が掛けられた。
「見ていれば分かるよ。その櫂人くんのことがとても好きなんだね」
「あ、はい……」
第三者から改めて言われると何だか照れる。
でも、真人さんの思いはもっと深いものだった。
「君の生きる理由になってくれる人が出来て、私としても嬉しいよ」
「あ……」
両親が亡くなって、私一人になって。
近しい親戚もいないし、父親の転勤でヨーロッパを転々としていた私にはそこまで仲の良い友達というのもいなくて……。
私のそばには誰もいないのに、一人で生きていく意味はあるんだろうかって思った。
だから、事故直後のときは真人さんにも酷いことを言ってしまったし。
それでも生きていたのは、両親の遺言と十二年前に櫂人とした小さな約束のため。
かろうじてつなぎとめていたようなものだった。
だからだろう、嬉しいと言ってくれるのは。
そのつなぎとめていた細い糸が、大切な人を見つけたら太く強くなっていくから。
でも……。
「真人さんも、私の生きる理由ですよ? この半年、ずっと側にいてくれたじゃないですか」
もちろん、四六時中一緒にいたわけじゃない。
今回みたいに仕事で数日会えない日だってあった。
それでも、身内のように……家族のように身近にいてくれたんだ。
半年前は酷いことも言ってしまったけれど、真人さんは今ではかけがえのない家族になっていた。
「恋華さん……ありがとう」
ちょっとしんみりほっこりした雰囲気になる。
真人さんも、櫂人とは別の意味で大切な人。
そんな風に、大切な人と再確認したこともあって話しづらくなってしまったけれど……でも櫂人とも約束したし、聞くだけは聞いてみないとだよね。
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