真人への相談①
「じゃあ、同居の話。ちゃんと相談しておけよ?」
日曜日の午後、昼食も終えた後にマンションまで送ってくれた櫂人に念を押された。
昨晩私がもしもの時は吸血鬼になると言って安心したからなのか、朝にはいつもの様子に戻っていた櫂人。
午前中も《朱闇会》の人たちと茜渚街で薬の捜索をして、私たちだけ帰って来た感じだ。
今日は真人さんが帰ってくる。
マンションにいて出迎えないと心配させてしまうだろうから。
「分かってるよ。……薬のことは、言わなくていいんだよね?」
「別にいいだろ。万が一が起きても大丈夫なんだから」
不安そうに確認した私に、櫂人は気にした様子もなく言ってのけた。
薬を無くしたこと。
あれだけ無くしてはダメだと言っていた真人さんには伝えた方がいいんだろうって思う。
でも心配をかけたくないし、もし万が一危ない状況になっても櫂人が私を吸血鬼にして助けてくれる。
だから、言わないことにした。
でも黙っている事への罪悪感はあるから、どうしても申し訳ない気持ちにはなってしまう。
「大丈夫だ」
しょんぼりしている様に見えてしまったんだろうか。
櫂人は大きな手で私の頭を包むようにポンポンと軽く叩いた。
「薬は探し続けるし、万が一があっても俺が恋華を絶対に助ける。心配かけたくないんだろう? 黙っていても大丈夫だよ」
「櫂人……うん、ありがとう」
私が決めたことを大丈夫だと後押ししてくれる櫂人に胸が温かくなった。
ポンポンされて、嬉しくても恥ずかしくてはにかむ。
するとスッと櫂人の綺麗な顔が近付いて来て――。
チュッ
あ、睫毛長いな……と思った瞬間唇に柔らかいものが触れた。
「っ⁉ か、櫂人⁉」
白昼堂々、しかも私が住んでいるマンションの前でキスなんて。
抗議の声を上げたけれど、櫂人は甘ったるい微笑みを向けるだけ。
「可愛かったから、したくなった」
「もう!」
「いいだろ? 今晩は一緒にいられないんだ。本当ならもっと濃厚なのして別れてぇんだけど」
「⁉ 分かった、大丈夫、今ので十分」
あまりの恥ずかしさに早口で告げると、「くはっ」と笑われてしまう。
そのまま笑いをかみ殺した表情をして、櫂人は「じゃあ、明日の朝な」ともう一度キスをして去って行った。
「ホントに、もう……」
マンションの住人に見られているんじゃないかと恥ずかしい半面、どこか喜んでいる自分もいてちょっと困った。
***
土日に家を空けていて出来なかった掃除などをして、夕飯の準備をしていると真人さんが帰って来た。
「お帰りなさい真人さん。お疲れ様でした」
「ただいま。……恋華さん、私がいなかった間何かあったかな?」
「え⁉ どうしたんですかいきなり」
出迎えると早速そんなことを聞かれて、何かありまくった私はついビクッと肩を揺らしてしまう。
「いや、エレベーターで丁度同じ階の
「んなっ⁉」
杉浦さんというのはこのマンションでは有名な噂好きのおばちゃんだ。
引っ越してきたその日から何かと世話を焼こうとして来るし、他の住人からは「悪い人じゃないんだけどねぇ」と言われている人。
噂の標的にならない様に気を付けた方がいいと注意されたんだけど……。
まさかよりにもよってその杉浦さんに見られていたなんて。
「というか、杉浦さん。私と恋華さんが恋人同士だと思っていたらしくて、『あなたの彼女、浮気してたわよ!』とかいきなり言われてしまったよ」
ははは、と力なく笑う様子に私も崩れ落ちそうな気分で「あー……」とうなった。
年は親子ほど離れているんだけれど、真人さんは若々しいからね。
「全く、大人が未成年の子と同棲なんて出来るわけないっていうのに……保護者だって念押ししておいたから変な噂にはならないと思うけれど……」
そう言いつつも、真人さんは不安そうな表情だった。
ああ……帰って来て早々面倒そうなことになってごめんなさい。
内心申し訳なく思っていると、改めて顔を上げて聞かれる。
「で? その男の子って彼氏なのかな?」
「う……はい」
そこまで知られているのに否定しても仕方がない。
それに、櫂人の家に住んでも良いかの相談をするのにどう切り出せばいいかなと思っていたから、ある意味都合は良かった。
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