一つに……①

「まずはメシ食うか。出来合いしかないけど、いいか?」


「あ、うん。もちろん」



 ご馳走になるのに文句を言うわけがない。


 手伝おうとしたけれど、レンチンするだけだからと待たされてしまった。


 ダイニングテーブルに移動して、対面式のキッチンに立つ櫂人を見る。


 ……カッコイイ。


 何をしていても様になるほどのイケメン。


 でも逆にわたしがそこに立って、テーブルに座っているのが櫂人になるのも良いかも知れない。


 手料理をご馳走して美味しいって言ってもらえたら嬉しいだろうな。


 これは、本格的に真人さんに料理を教わった方がいいかも知れない。


 なんてことを考えていると、キッチンの方からちょっと呆れた声が掛けられる。



「何ニヤニヤしてるんだ?」


「へ⁉ ニヤニヤって」


「楽しそうな顔してた」



 櫂人はフッと笑いながら、早くも準備が出来たのかお皿を二枚カウンター部分に置いた。


 ミートスパゲッティだ。



「テーブルに置いといてくれ。今スープも出来る」


「うん、分かった」



 言われた通りお皿を置きながら、やっぱりこういうのいいなぁと思った。


 今度は指摘されなくてもニヤニヤしてるって自分でも分かる。


 スープを持ってきた櫂人も私の向かい側に座って、お互いに「いただきます」と食べ始めた。


 そうして二人でお腹を満たしていると、ふと思う。



「そう言えば、吸血鬼も普通の食事するんだね?」



 思えば太陽の下も平気だったし、伝説とかの吸血鬼とは違うんだろうか?



「するよ。吸血鬼って言っても、血が主食なわけじゃないからな」



 嫌な顔一つせず、櫂人はそのまま説明してくれた。


 吸血鬼は必要な栄養素の一つとして人間の血を飲むのだという。


 他に違うことといったら身体能力が高いこと、怪我などの治癒力が高いこと、そして催眠術などが使えることだそうだ。


 あとは自分の血を使って色々出来るらしいけれど、ほとんどがハンター協会で禁止行為にされていることだからやらないんだとか。



「へぇ……そうなんだ」



 人間との違いを聞きながら食事を進めていく。


 身体能力が高いところとかは予想通りだったけれど、伝説のように太陽や十字架、にんにくが苦手ってことはないらしい。


 その後も主に吸血鬼に関しての話をして、食事は終わった。



「じゃあ先にシャワー浴びて来いよ。俺は片してるから」


「え? 片付けくらいはやるよ。櫂人が先に入って来て?」


「いいって。……それとも」



 ご馳走してもらっておいて片付けも手伝わないなんて、と申し出た私に、櫂人は妖しさを漂わせてニヤリと笑う。



「シャワー、一緒に入るか?」


「ぅえ⁉」



 予想外の言葉に思わず変な声が出た。


 きっと顔も変な表情になってる。


 そんな私を見て、櫂人は「ふはっ」とふき出すように笑った。



「冗談だよ。いいからシャワー行って来いって」


「ううぅ……」



 からかわれただけだったみたいで、恨めしい思いで睨んだ。


 するとまた妖しい笑みを向けられる。



「一緒にだと、我慢出来なくなりそうだからな」


「っ⁉」



 何が、なんて聞かなくても分かった。



「じゃ、じゃあお先に失礼するね!」


「ああ、バスルームはそっちだ。着替えになるものはあとで用意しておく」



 苦笑気味に指し示された方へ急いで向かう。


 とにかく恥ずかしくて、今は櫂人に顔を見られないところへ行きたかった。


 バスルームのドアを閉めて、やっと息を吐く。


 でも心臓はまだまだ早鐘を打っていて、完全には落ち着けない。



「抱かれる、んだよね……?」



 食事をして甘い雰囲気がいったん収まったから、この後のことを意識するのをやめていた。


 でも、さっきの櫂人の様子で一気に戻されてしまった。


 もちろん、嫌じゃない。


 好きな人だし、あんなにも求めてくれているから……。


 ただ、やっぱり恥ずかしいとか初めてのことに不安があったりとか、色々考えてしまう。



「ああ! もうどうすれば!」



 落ち着かない心を表すように両手で髪をわしゃわしゃと乱す。


 でもそんな私自身の姿が洗面台の鏡に映ったのを見て、スンと冷静になった。


 ただでさえ汚れていただろうに、髪も乱れて酷い格好。



「……シャワー、浴びよう」



 とりあえずは、汚れを落とすことが先決だって思った。


***


 シャンプーなども借りて綺麗にして出ると、櫂人のものと思われる大き目の水色のTシャツが置かれていた。


 下着をつけてそれを着ると、七分袖と三分丈くらいになる。


 やっぱり男もののTシャツって大きいんだな、と実感するとともに、櫂人との体の違いを意識して何だか照れてしまった。


 というか、下に履くものは用意してないってことは――いや、そこは考えないようにしよう。


 考えたらまた落ち着かなくなりそうだって分かっていたから。



 洗濯機の横にあったハンガーを借りて制服を適当に掛け、髪もしっかり乾かしてからリビングに戻ると、櫂人はソファーに座って待っていた。



「お? 結構ゆっくりだったな?」


「あ、待たせちゃったね。ごめん」



 私が出てきたのを見て、ソファーに座っていた櫂人が立ち上がり側に来る。



「……ヤバイな」



 私を見下ろしてそう呟いた彼は、その節ばった手で自分の口元を覆う。



「櫂人?」


「ヤバイ、俺のTシャツ来てる恋華とか……可愛すぎ。今すぐ抱きたい。たくさんキスして、ドロドロにしてやりたい」


「かっ櫂人⁉」



 なんだか欲望まで呟いてしまっている彼氏に驚きの声を上げる。


 さっきもそうだったけれど、感情が昂ると櫂人は甘いことをつらつらと口走ってしまうんだろうか。

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