茜渚街へ①
早めに寝たというのに、起きたのはいつもと同じ時間。
早くに出るという真人さんをお見送りしたかったのに、もう彼は出てしまった後だったらしい。
しかもしっかり私の分の朝食も作ってくれていたみたいで、本当に申し訳ない。
仕方なく一人で朝ごはんを食べ終えると、いつものように持ち物チェックをしてすぐにマンションを出た。
昨日と同じ時間に出て歩いて行ったら確実に間に合わないし、バスを利用するにしても昨日すれ違ったときの様子だと満員で乗れるかどうか分からない。
なんにしても早く出た方がいいと判断した。
おかげで比較的空いているバスに乗ることが出来て、遅刻の心配もなく安心して学校につくことが出来る。
安心しながら校門を通ったとき、ふと昨日のことを思い出した。
昨日の朝、ここで別れたっきり会っていない櫂人先輩。
遅刻せずに済んで良かったけれど、彼に会えないのは寂しいかなと思ってしまう。
でもすぐに頭を振ってその思いをはじき出した。
「ダメダメ! クラスメートと仲良くするためには櫂人先輩とは関わらない方がいいって昨日思ったばかりじゃない!」
櫂人先輩に惹かれてしまうのはもう仕方ない。
怖いと思ったのに、それでも関わりたくないなんて思えないんだもの。
気になってしまうのはもうどうしようもないだろう。
でも、だからと言ってこれが恋なのかはよく分からない。
怖いもの見たさみたいなのと同じで、怖いけれどだからこそ気になるというやつなのかもしれないし。
それに、例え恋だとしても一方通行の可能性が高い。
櫂人先輩は親切で送ってくれただけだろうから……。
それにキヨトくんたちの見方だと私は気に入られているらしいけれど、でもそれだって女の子として気に入られているかどうかは分からない。
もう一度会ってみれば何か分かるかもしれないけれど、会うわけにはいかないし。
第一、暴走族の総長なんてしている人だ。毎日学校に来ているのかも怪しい。
結局、どんなに惹かれていても関わるわけにはいかないし、関われるのかも不明ってところ。
「はぁ……」
私は色んな意味で諦めのため息を吐いて、校舎へと足を向けたのだった。
***
早めに来れたから教室にも人は少なかった。
でも少なくとも昨日あからさまに悪口を言っていた子たちはいなかったから、私は気持ちを奮い立たせて今いるクラスメートにあいさつをする。
「おはよう」
「え? あ、は、はよう……」
でも返してくれたのは近くにいた男子生徒だけで、他は無言。
昨日無関心だった子は完全にスルーだ。
うん、手強い。
あまりしつこいのは普通に嫌われちゃうし、その場ではそれで終わりにする。
でも、他にも登校してきた子たちにあいさつは続けていった。
男子はキヨトくんとケンジくんは普通に挨拶を返してくれたけれど、他はまばらな感じ。
女子は無視をする子。
返そうとしてくれるけれど思いとどまっちゃう子。
挨拶を返すどころか睨みつけてくる子と様々だった。
睨みつけて来た子たちは昨日悪口を言っていた子たちでもあったから、あの子たちと仲良くなるのは難しいかもしれない。
休憩時間を利用して、他の女子たちと少しずつ距離を縮めていこう。
私はめげずにそう思った。
……思った、んだけど。
その日のお昼休憩が終わるころには、事態はもっと悪くなっていたことを思い知る羽目になった。
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