治療
キヨトくんたちと別れた私は、当初の予定通り真人さんの待つ
その足取りは、正直重い。
それもそうだろう。
新しい学校、新しいクラス。
期待と不安を胸に向かった先では初めからのけ者扱い。
しかも現状、どうすればみんなと仲良くなれるのか分からないし。
「男子は私が櫂人先輩と関わらない様にすれば近付いて来てくれそうだけど……」
櫂人先輩が怖いから近付かないというなら、私とは関係ないと分かれば初めのように近付いてくてはくれそうだと思う。
でも、そうなったらそうなったで女子には更に反感を買ってしまいそうだ。
男をはべらせて、なんて文句が聞こえてきたくらいだもの。
男子だけが近付いてきたら同じように思われるのは目に見えている。
「となると、女子と先に仲良くなりたいところなんだけど……」
今日の女子の様子を思い出す。
少し離れたところから私を見て悪口を言っていた子。
私を気にしつつも関わろうとしてこない子。
無関係とばかりに全く私を見ない子。
少なくとも率先して私に話しかけてこようという女子はいなかった。
「これは……難易度かなり高いよね……」
ははっ、と乾いた笑いをこぼしながら独り言ちる。
でも、このまま何もしないわけにはいかない。
海燕高校の生活はまだ一年半以上あるんだから。
「よし! まずは明日、話せそうな女子に話しかけてみよう!」
宣言して、決意する。
このくらいでへこたれていられない。
改善する余地があるのかどうかは試してみないと分からないし、試すこともせずに逃げるようなことはしたくない。
「……お父さんとお母さんが安心して眠れるようにしないと、ね」
もうそばで見守って貰えない両親を思う。
二人のことを思い出すとまだ辛いけれど、それでも二人は私に生きることを望んでいたと看取ってくれた真人さんから聞いた。
だったら、せめてその望みだけは叶えたいと思う。
生前は親孝行らしいこと、全然できなかったから。
それに、落ち込んでばかりだと真人さんにも心配をかけてしまう。
「うん! 元気出していこう!」
落ち込みそうになる心を奮い立たせて、私は汐見クリニックへと足を速めたのだった。
***
汐見クリニックは汐見
そのため私の治療をする場所としてもクリニックの設備を貸してもらっている状況だ。
ここで処置してもらうのは二度目。
私は他の患者さんと同じように待って、呼ばれて真人さんの診察室へ入った。
「少し遅かったね。友達と長話でもしてしまったかな?」
「……そんなところです。ごめんなさい」
真人さんの指摘を笑って誤魔化す。
友達――ではないんだろうけれど、キヨトくんたちと話していて遅くなったのは事実だったし。
真人さんはそれ以上追及することなく診察をし、私に処置室へ行くよう指示を出す。
処置室には看護師さんが先にいて準備をしてくれていた。
「片桐さん、そこに横になっていてくださいね」
「はい」
何度かしていることとはいえやっぱり処置前は多少緊張する。
私は言われた通り横になると軽く深呼吸して落ち着くよう努めた。
「じゃあ始めますよ」
「はい」
太い針が腕に刺されて、血が抜かれていく。
私の病気は
薬で治療する方法もあるらしいけれど、真人さんの話ではその薬が私には合わないのだとか。
なのでこうして
「終わりましたよ。そのままでしばらく休んでくださいね」
針を抜いて止血の処置をテキパキと済ませた看護師さんはそう言って処置室を出て行った。
そうして待っている間に、診察の合間を見て真人さんが様子を見に来てくれる。
「調子はどうかな? 気持ち悪いとかない?」
「大丈夫です」
「もうしばらく休んだら、遅くなったけれど一緒に昼食にしよう。お弁当持ってきているから」
「はい」
そんな会話を笑顔で終えると、真人さんは「ちょっと見て欲しいんだけど……」と何か大き目の紙を取り出した。
広げて見せられたそれを見て私は何とコメントをすればいいのか分からず黙る。
「待合室に貼ろうと思って描いたポスターなんだけど、どうかな? 私としては分かりやすく描けていると思うんだけど……何故かみんなに不評なんだよね」
「……」
小児科でもある汐見クリニック。
子供の患者さんも多いから、その子たち用に描いたものなんだろうっていうのは分かる。
読みやすい字で『待合室では静かに遊ぼうね』と書かれていたから。
ただ、描かれている絵が問題だった。
オバケとしか思えない白い人のようなものがニヤリと笑っている様に見える。
それでもディフォルメされた可愛らしいイラストなら良いかもしれないけれど、微妙な感じにリアル。
正直、怖い。
「どう?」
重ねて聞いて来る真人さんに、私は正直に感想を口にする。
「正直言って、怖いです。待合室に絶対貼らないでください」
待合室の子供たちが泣いて待つことにならないよう、しっかり釘も刺しておいた。
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