22.第二団の見習い騎士(1)
「第二団は総勢83名。怪我や病気、休職等で実際の実働人数は60名程だよ。それを10個の班に分けていて、任務にあたる時は班ごとで動く。各班には班長がいるから班で動く時は班長の指示に従ってね」
任命式が終わりアレクセイに挨拶をした後、ハナノとフジノはアレクセイの部屋から、今度は第二団が集まっている騎士団本部一階のホールへと歩いていた。歩きながら第二団について、アレクセイが説明してくれる。
「今日は君達の配属もあって、ホールに集まれる者は全員集まってもらってるから前で紹介するね。えーと、あとは、第二団が皇室直属なのは知ってるかな?」
「はい、知ってます」
「それなんですけど、前からありましたか?」
ハナノの返事の後にフジノが聞く。聞いてから「なかったよなあ」と周りには聞こえない音量で小さく呟いている。
「もう何十年も前からあるよフジノ。第一団から第四団までは皇室直属、貴族会議を通さずに皇室の勅命のみで動ける。より早く、ポイントを押さえて動けるんだ」
「つまり皇帝陛下の意向だけで動けるんですね」
「そうだよ」
「ふーん、あの派閥の思惑が絡み合うめんどうな貴族会議をすっ飛ばして騎士団を動かせるのはいいな。皇帝の出来には左右されるけど……」
再びぶつぶつ呟くフジノ。
「え? なになに? 聞こえないよ」
アレクセイが耳に手をやって“聞こえない”アピールをしてくる。
(可愛い)
その仕草にハナノはこっそり悶えた。
「何でもないです。いいものを作りましたね」
「そうだよねえ」
上から目線のフジノにもアレクセイは穏やかに返した。
アレクセイの可愛さに悶えながらも、あまりにフジノが偉そうなのでちょっとはらはらするハナノ。
でもアレクセイはフジノの態度を気にしてないようで、むしろその生意気を楽しんでいるようにも見える。可愛いのに懐まで深いなんて、素晴らしい上司だ。
おまけにフジノが、不気味だという程に強いらしい。フジノが言うからそこは間違いない。
優しく強い上司。おまけに可愛い。
素敵だ。
ハナノは既にアレクセイの事が大好きになり、全幅の信頼を寄せつつあった。
それにしてもフジノはこんなに偉そうで騎士団で上手くやっていけるのだろうか。
騎士なんて完全に体育会系縦社会だ。いくら天才でも、後輩としての可愛さは必要だと思う。
(大丈夫かなあ……)
一抹の不安を抱きながらハナノはアレクセイの後に続いた。
騎士団本部の一階のホール。それは食堂の横にあり、団ごとの集会やレクリエーションに用いられる多目的ホールだ。ホールと食堂の仕切りは取り払えるようにもなっていて、食堂と繋げて慰労会や祝賀会で使用されたりもする。
そのホールには、既に第二団の騎士達が集まっていた。集まっている騎士達は、リラックスして楽しそうにしゃべっている。
ハナノは何だかほっとした。
エリート騎士の集まりだと聞いていたから、もっと冷たくてピリピリしているのかと思っていたのだが、談笑している雰囲気は町の自警団と変わらない。境遇は違えど若者が集うと、こんなものなのかもしれない。
「はーい。皆、注目して」
アレクセイが前に出てそう言うと、わいわいしていた騎士達が静かになった。
騎士達の視線がハナノとフジノに集中する。
(ひゃあ)
ハナノは緊張で顔が赤くなった。
精鋭の騎士に見られてると思うとドキドキする。
「皆で楽しみにしてた新人騎士達だよ。ハナノ・デイバンとフジノ・デイバンだ。15才で双子だよ。えーと、じゃあ、一言ずつどうぞ」
「ええっ! き、聞いてないです」
いきなり話を振られて、ハナノが裏返った声をあげると騎士達はどっと笑った。
「団長ー、びっくりしてますよ」
「そうですよー」
「名前とよろしくお願いします、でいいんだよー」
口々にそう言ってくれる騎士達。
「だって、ハナノ。では、改めてどうぞ」
「はい! ハナノ・デイバンです。不届きものですが、よろしくお願いします!」
ハナノの言葉に皆またどっと笑った。
「?」
笑うポイントあっただろうかと首を傾げるハナノ。
「ふ、くく、ハナノ。せめて、ふつつかもの、だと思うな。不届きものだと捕まえられちゃうよ」
アレクセイが笑いをこらえながらそう言い、ハナノは真っ赤になった。
「そうだぞー、お縄になっちゃうぞー」「ここ、騎士団本部だよ、不届きものは困るよー」騎士達が囃し立てる。
「ううぅ、間違いました」
恥ずかしい。すごく、恥ずかしい。ものすごく、恥ずかしい。
「はーい。あんまり笑わないよ。フジノはどうする? ひと言自己紹介する?」
「しません」
(えっ、しないの?)
あっさり自己紹介を断るフジノにハナノは驚愕するが、フジノは涼しい顔だ。
「じゃあ、こっちの男の子がフジノね。仲良くしてあげてね。これでお披露目は終わり。皆、持ち場に戻るように」
アレクセイがそう言って前での紹介が終わる。騎士達は「よろしくな」「明日からの訓練、頑張れよ」と三々五々に散っていく。そんな中にハナノは見知った顔を見付けた。
「あ!」
大柄の少し怖そうな顔の騎士。
それは入団試験で、ハナノの審査をしてくれた騎士ファシオだった。
(ファシオさんだ! わお! 第二団なんだ、エリートじゃん!)
ハナノがぱあっと顔を輝かせると、ファシオもハナノを認めて豪快に手を振ってくれる。ハナノも小さく手を振って、にへっと笑った。
「知ってる人?」
フジノが手を振るハナノに気づいて聞いてくる。
「うん。入団試験で審査してくれた人だよ。ファシオさんっていうの」
「ふーん」
フジノは興味なさそうにファシオを一瞥だけした。
そして騎士達ががやがやと班で戻る中、アレクセイが名前を呼ぶ。
「サーバル!」
その呼び掛けに、明らかに嫌そうな足取りで騎士が一人出てきた。
「はい。団長」
出てきたのはツンツンしたピンクの髪のショートカットの女性騎士だった。その肌は褐色で目は猫みたいにつり上がっている。背はハナノより少し高いくらいで小柄だが、ハナノとは違ってがっしりした体つきだ。帯剣している剣は大振りで、腰にさすのではなく背中に背負うような形で身に付けている。
「君に二人の世話役を頼みたいんだ、とりあえず半年の見習い期間が終るまで」
「団長、お世話係イコール女騎士、っていうのはどうかと思います。嫌です」
サーバルは手を後ろで組んでむすっと言い返した。
「ええぇ」
アレクセイが困った声をあげる。
「男尊女卑です」
「そうかなあ」
「そうです」
「うーん、でもさ、これからハナノに寮の案内もしてもらいたいんだ。女子寮に男性騎士は入れないだろう。それに、ハナノに怖いおじさん騎士を付けるなんて可哀相だよ。ここはハナノが憧れるカッコいい女騎士だと思うな」
アレクセイがそう言うと、サーバルはちらりとハナノを見る。
ハナノはというと、もちろん、計画的でも何でもなく、サーバルが前に出てきた瞬間より目をキラキラさせて、頬を赤らめてサーバルを見ていた。
(かあーーっこいい!)
鼻息も荒くなっている。
(堅そうな腕、堅そうな腹筋、褐色の肌! しかも大剣!)
涎が出てしまいそうだ。
(ローラの無造作ロングも良かったけど、ショートカット女騎士もいいな!)
(足音も、トコトコじゃなかったよね。何か、ざっざっ、みたいな足音させてたなあ。いーいーなああ、私もショートカットにしようかな)
キラキラとした何かが出ているようなハナノの憧れの眼差しだ。
「っ…………」
サーバルの瞳が揺らぐ。
すかさずアレクセイが詰める。
「それに世話役っていうのは名前だけで、中身は指導役というか、ほら、頼れる兄貴的な役割だし、サーバルが適任だと思うな」
「頼れるアニキ……」
サーバルはその響きは気に入ったようだ。
畳み掛けるアレクセイ。
「ねえ、ハナノ、頼れる兄貴はサーバルがいいよね?」
「はい! ハナノ・デイバンです! よろしくお願いします!サーバルさん!」
ハナノは張り切って挨拶した。サーバルの頬が赤くなる。
「ふ、ふんっ、しょうがないな。そっちは?」
サーバルはハナノの様子にちょっと嬉しそうにしながら、フジノを見た。
「フジノ・デイバンです。ハナノの兄です。よろしくお願いします。サーバルさん」
フジノもきちんと挨拶した。口調にめんどくさそうな様子や、嫌味な感じは全くない。
「ったく、しょうがないなあ、よし、私がまとめて面倒みてやるよ!」
サーバルは腰に手をあててふんぞり返る。嬉しそうだ。
「「はい! ありがとうございます」」
ハナノとフジノは声を揃えて答えた。
「……フジノって、ちゃんとした挨拶も出来るんだね」
アレクセイがフジノのまともな態度にびっくりしているので、ハナノはこそこそと教えてあげた。
「アレクセイ団長、フジノはある程度年上の女性には弱いんです」
「えっ、なにそのベタなやつ」
「かわいい所、あるでしょう」
ハナノは得意気に胸を張った。
うちのフジノにだって、可愛い所くらいあるのだ。フジノがサーバルをある程度年上の女性として認識するか少し疑問だったが、そのように認識しているようだ、よかった。
「へえぇ、とにかく適任みたいで良かったよ。じゃあ、サーバル、よろしくね。本部の案内と入寮の手続きをしてあげてね」
「はい、団長。二人ともついてこい。帝国騎士団本部ツアー、アーンド、寮見学だ」
すっかりやる気になっているサーバル。
ハナノとフジノはアレクセイに礼をすると、サーバルの後を追った。
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