23.第二団の見習い騎士(2)

「あんたら、双子だって?あ、まずここが食堂な、朝昼晩の三食は無料で出る。それ以外の軽食と酒は有料。で、双子だって?」

 ハナノとフジノを連れて騎士団本部を歩きながら、サーバルはまじまじと二人を見た。

 

「うーん、顔、一緒か?」

 見比べて顔をひねる。

 

「なんか微妙に違うな。目の輝きは特に違う。ハナノの方が光ってる」

「双子です。ちなみに僕が兄です。小さい頃はそっくりだったんですけどね」

「ふーん、まあ男と女だもんな。そりゃ違うくなるよな。あ、ここが事務室な、寮の手続きしとこう、おいで」

 騎士団本部の事務室のカウンターへサーバルは「すみませーん」と近づく。ハナノとフジノはサーバルに手伝ってもらいながら入寮の手続きをした。周りには同じ様に入寮の手続きをしている新人達がちらほら見える。

「あ、第二団の双子じゃん」「訓練ではよろしくなー」何人かが声をかけてくれて、ハナノはひらひらと手を振っておいた。フジノは一瞥だけだ。


 入寮手続きの後は、本部ツアーの再開だ。

 騎士団本部は中庭を中心にコの字型をしていて、三階建てになっている。

 一階には食堂とホールの他に、事務室や医務室、会計室、娯楽室、各騎士団の詰所や武器庫等があり、二階は各団長の執務室と図書室があった。図書室は、今まで見たどの図書室より大きい。


「うわあ、広いですね」

 広く天井も高い図書室にハナノは感嘆の声をあげる。

「皇室の図書室と張るらしいぞ」

「へえー、フジノ良かったね、読み放題」

 地元の神殿の図書室なら10個くらい入りそうだ。きっと魔物の本とか魔物の本とか魔物の本とか、古書とか古書とか古書とかが、たくさんあるのだろう。楽しみだ。

「そうだね」

 フジノも目をきらきらさせている。この規模の図書室はさすがの天才も嬉しいみたいだ。


「貸し出しカード作ったら、禁帯出以外の本は借りれるぞ。あ、奥には禁書コーナーもある。捜査に関係なければ閲覧は推奨されていない。みだりに立ち入らないように」

「サーバルさん、貸し出しカードを作っておいていいですか?」

 こう聞いたのはフジノだ。


「え、いまあ?」

「今です」

「急ぐことかあ?」

「急ぐことですね」

「仕方ないなあ」

 サーバルは渋々だが、図書室のカウンターにも「すみませーん」と声をかけて二人の貸し出しカードを作ってくれた。

 

「さて、三階は倉庫と会議室だし、もう省略して寮に行こう」

 図書室を出たサーバルはそう言って、騎士団本部の建物から外に出た。

 

「男子寮は訓練棟の近くで、本部からは遠いんだ。女子寮はすぐ近くだから、まず男子寮行って帰りに女子寮な」

 本部の建物から出て、男子寮に向かいながらサーバルが言う。


「訓練棟は説明会で行ったことあるんだよな?」

「はい、あります」

「じゃあ、概要だけでいいよな、あそこは大ホールと屋外と屋内の鍛練場がある。あと仮の医務室と、なんか諸々」

 本部からそれなりに歩いた場所に、訓練棟があり、その裏手に男子寮はあった。三階建てののっぺりとした建物がたくさん並んでいて、かなりの人数が暮らしていると分かる。


「騎士団の人は皆寮に住んでるんですか?」

 ハナノは建物の多さに驚きながら尋ねた。


「あー、そうだな帝都の騎士団の独身者はだいたい寮かな。既婚者も、この向こうに家族向けの住宅があるからそこが多い。帝都で普通に部屋借りると家賃が高いんだよ。実家やタウンハウスが帝都にあるいいとこの奴らも意外に寮に入ってるな。急な召集もあるから便利なんだよ」


「なるほど」

「団長クラスになったら、また別の本部横の屋敷に部屋が用意される。そっちは執事も使用人もいるし、本部の食堂まで行かなくても食事が出る。団長達は朝と夜は屋敷で食べる人がほとんどだよ」

「おおー、さすが、団長は違いますね」

「ああ、風呂も一人一つ専用のがあるんだってさ。あ、ちなみに総監もそこに住んでる」

 サーバルがそう言い、ハナノは任命式で見たブレアを思い出した。

「ブレア総監、任命式で見ました。すごい存在感ですよね」

「なー、かっこいいよな。私は今だに総監の前は緊張するからな」

 そんな話をしながら男子寮へと入り、総合受付みたいな所でフジノの部屋を聞く。寮の簡単な説明をフジノと一緒に聞いてから、フジノにいったんの別れを告げてハナノはサーバルに女子寮へと案内された。


 女子寮は騎士団本部の隣にある男子寮に比べるとこじんまりした建物だ。女子寮の隣には広大な庭を持つ大きな屋敷があり、そちらが団長達の暮らす屋敷らしい。


 女子寮へ入り、寮母さんに挨拶をして部屋番号を聞く。ハナノの荷物がちゃんと届いていてハナノは鞄を持ってサーバルと共に部屋へと向かった。

 

「あ、あったぞ。ここだ」

 寮の二階、目的の部屋を見つけてサーバルが扉を開ける。昨日まで泊まっていた町の宿くらいの大きさの部屋にベッドと簡単な机と椅子に、クロゼットが二つずつ用意してあった。それぞれのセットごとに左右の壁際に寄せてある。


「もしかして、二人部屋ですか?」

「あ、そうだよ。扉横に名前あったはず……えーと、ハナノと同室は、ローラ・アルビンスタインだってさ、新人騎士だと思うぞ」

「ローラですか!?」

 ハナノは、ぱあっと顔を輝かせた。


「知り合いか?」

「はい! 説明会で友達になったんです。第三団配属の子です」

「そうか、良かったな。ちなみに私はあっちの一番端の部屋だから何かあれば言えよ」

「はい、ありがとうございます」


「じゃあ、さっきフジノにも言ったけど、今日はここまで。荷物の整理して、寮に慣れておくように。明日は本部の食堂でちゃんと朝食を食べてから訓練棟に向かうんだぞ。訓練後は食堂に迎えに行くから、昼食べて待ってろ」


「分かりました。」

 サーバルの言葉の最後の“待ってろ”が、かっこいいなあ、と思いながらハナノは返事をする。

 自分もいつか後輩が出来たら是非言いたい。


「じゃあ、ゆっくり休めよ。また明日な」

「はい!」

 サーバルが出ていき、ハナノは部屋で1人になった。


「ふう」

 荷物をベッドの脇に置いて、改めて部屋をぐるりと見回した。左右の壁際に配置されたベッドの間には腰高の大きな窓があって、そこから差し込む光で部屋は明るい。

 窓に近付いて開けてみた。本部の建物が少し見えて、男子寮も小さくだが見える。そよそよと良い風が部屋の中へ吹いてきて、カーテンを揺らした。


 時刻は昼の遅い時間で、けっこうお腹も空いている。

(ローラが来たら一緒に食堂でお昼にして、寮のお風呂とか確認しようかな)

 ハナノはそんな事を考えながらベッドに座った。座ると一気に力が抜ける。いろいろ緊張していたようだ。


「ふー」

 今日からここで騎士としてやって行くんだなあ、という実感がじわじわと込み上げてくる。


 今日から騎士として。

「ふー、ふふふ、うふふふ、うふうふ」

 ハナノは嬉しくて自然と笑いが込み上げてきた。


「ふふふうふふ、くふくふ。」

(騎士になったぞー!!!)

 心の中でそう叫ぶ。


「うふふふ、ふはー、はふはふ」

(なったぞー!!!)

(寮だぞー!!)


「ふはふふ」

(寮だって!ぽいなあ。騎士っぽい!)


「待ってろ!」

 ついでにさっきのサーバルを真似して言ってみる。かっこいい。


「っ……待ってろ!」

 少しためてから言ってみる。やっぱり、かっこいい。


「ふはははははは」

 ハナノは気持ち悪く笑いながら騎士になれた喜びをベッドで転がって噛み締めた。


 

 

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