14.説明会(3)
「あなたの兄、フジノ・デイバンは絶対にそこに配属になるわよ」
自分の心の声とかぶってローラがそう言ったので、ハナノはびっくりした。
「えっ、フジを知ってるの?」
「私、入団試験では彼と同じ試験場だったの。剣術も炎の竜巻も近くで見てたわ。でも、そうじゃなくても今年の合格者は皆、彼を知ってると思うわよ。双子の合格者なんてそもそも目立つのに、フジノ・デイバンは試験でダントツだったもの。すごい噂よ」
「そっかあ、そうだよね」
ハナノはしみじみとそう言った。さっきのホールでの注目もすごかった。やっぱりフジノはすごいのだ。
(上位四団かあ……)
双子の兄がいよいよ遠い存在になるみたいでちょっと寂しい。
「で、でも!ハナもいい子だわ!」
寂しそうになったハナノを見て、ローラはハナノがフジノと比べられて落ち込んだと思ったようだ。慌ててそう付け加えてくれた。
「えっ、ありがとう」
「ええ! とってもいい子よ! 兄の威光なんて振りかざしもしないし、付属品とか付録だなんて、とんでもないわ!」
「付属品?」
聞き返したハナノにローラは、はっと自分の口を塞いだ。その顔が青くなる。
(……あー、そうか)
ローラの様子にハナノは察した。
フジノがこれだけ注目されているのだ、ハナノの事もいろいろ言われているに違いない。そしてそれはきっと少しネガティブな内容だ。
(おまけ、とか言われてるんだろうな)
そういう経験ならある。
地元の剣術大会で優勝するようなフジノはもちろんモテた。顔の造作も少々甘めで整っており、頭もいい双子の兄がモテない訳がない。でもそんなフジノは常に妹のハナノにべったりで、だからハナノはフジノを好きな女の子達から陰口を言われていた事がある。「おまけのくせに」とか「いい気になってんじゃないわよ」とか。囲まれて責められたりもした。
そして、神殿の学校では先生からはいつもフジノの付属品扱いされていたのもハナノは知っている。
だから、新人騎士達の間で自分がどんな風に言われているのかは簡単に想像がついた。
「あ、あのね、ハナ」
おろおろするローラ。
「えーと、ローラ、大丈夫だよ。何て言われてるかは大体分かる」
「悪意はないやつよ」
「うん、それも分かる。まだ皆名前もあやふやだもんね、双子のすごい方と、そうじゃない方みたいな奴だよね」
「え、ええ、そういう感じ……」
「いつもそうだから気にしてないよ。覚えてもらえるだけいい事だもの」
そう言ったのは決して強がりではない。200人もいるのだ、存在を知られてるだけいい方だろう。子供の頃に囲んできた女の子達とは違って、妬みからではなく興味本位のものだろうという事も分かる。
ローラは黙りこんでから、ぐっと唇を噛み、それから口を開いた。
「……貴女の事はもちろん、フジノ・デイバンの妹として名前を知ってたわ。でも、今は違うわ! ハナはハナだもの自信を持って」
「えへへ、ありがとう」
ハナノは、ローラが励まそうとしてくれている事に嬉しくなった。
「何なら、今ではもう、私の中ではハナが中心で、その兄がフジノ・デイバンってだけのことだわ」
「うん。ありがとう」
「どういたしまして! それでハナは? 配属の希望はあるの?」
ローラはすぐさま話題を元に戻した。
「うーん、フジノと一緒はムリそうだから、一番上のフリオ兄さんと同じがいいなあ、とは思ったけどそれを書くのは恥ずかしいから、特になしにしたの。ローラは上位四団を希望するくらいだし、強いんだよね?」
ハナノがそう聞くと、ローラは少し顔を赤くして答えた。
「ええ。自信はあるわ」
「かあっこいいー」
思った事が口に出るハナノ。ローラは真っ赤になった。
「もしかして、ローラは魔法が使えたりする?」
「使えるわ、属性が変わってて、重力の魔法なの。滅多にない属性だから、それもあって上位四団も可能だと思うの。珍しい能力持ちは皇室直属で囲う傾向があるのよ」
「へええー、確かに重力なんて聞いたことない。フジノが好きそう。今度見せて」
「いいわよ。……ねえ、ところでハナは、その、帝都で宿を取ってるの?」
ここでローラの態度が一転して、もじもじしながら聞いてくる。
「うん、フジと一緒に」
「そ、そう。お宿ってどの辺りなの?」
「えーっとね、帝都は全然分からないから、どの辺なのかはちょっと。帰り方は分かるんだけど」
「そ、そう……」
もじもじするローラ。
(何だろう、宿の場所がそんなに重要なのかな?)
「後でフジノに聞こうか? なぜかフジノは帝都にも詳し」
「ニンメイシキ、イッショニイカナイ?」
ハナノが聞いたのと、真っ赤な顔でローラが棒読みで言ったのは同時だった。
(ん?)
ローラの言葉は棒読みだったので、ハナノは意味を理解するのに時間がかかった。
「……今、任命式、一緒に行こうって言った?」
「え、ええ! 言ったようね! つい、ついね! 無理にとは言わないわ」
ローラが顔を真っ赤にしながら、アワアワと答える。
(ふふふ、可愛い。誘い慣れてないんだな)
なんだかくすぐったい。
「いいよ、嬉しいな。一緒に行こう」
ハナノがそう答えるとローラの顔が輝く。
もしかしたら、ローラも友達がいなかった口なのかもしれない。
「私が宿まで迎えに行くから、宿を教えてちょうだい」
ローラがそう言い、ハナノは採寸の後、フジノに宿の住所を確認してからそれを教えてあげた。
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