9.フジノの取引(2)

ラッシュとのやり取りを終え部屋を出たフジノは、ハナノとの待ち合わせ場所である会場受付へと急ぐ。外へ出るとほとんどの試験会場で片付けが始まっていた。ハナノはきっと受付で待っているだろう。


(二属性はやり過ぎだったみたいだ。竜巻だけの方が良かったかな?)

 歩きながらフジノは反省した。

 魔法で注目される事は計画していた事ではあったが、ここまで警戒されるのは予想外だった。話が上手くまとまったからよかったものの、場合によっては困った事になっていたかもしれない。

 

 フジノとしては一番上の兄のフリオから、入団試験の成績上位者は配属希望が通りやすい、と聞いて、ちょっと注目されるくらいを狙っていたのだ。


 宿泊した宿の店主に、魔法が使える騎士団の受験生は魔法塔の採用試験も併願している事も多く、そういう受験生には試験後すぐに囲い込みがあるらしい、とも聞き、それなら、と炎の竜巻を出した。

 自分を騎士団から逃すのは惜しい、と思わせてハナノと同じ配属を通すつもりだった。


(なんか、思ってたより扱いが大袈裟だったよな。普通より少し上を狙うのって難しい)


 前世で勇者で天才だったフジノは、前世のルドルフ時代も魔力が多く魔法が堪能だったので、そもそもの普通の感覚がずれている。


 おまけにルドルフだった時にフジノが行動を共にしていたのは、大賢者ユリアンとエルフの戦士ラグノアだ。ユリアンはルドルフと同じくらいの魔力と、ルドルフなんか足元にも及ばない魔法のセンスの持ち主で、想像もつかない規模の魔法を使いまくっていたし、エルフであるラグノアは、何かと制約はあったが精霊の力を借りて、魔力に関係なく全ての属性のあり得ない魔法を使いまくっていた。


 そんな前世の記憶を持ち、今世も溢れる魔力をもっているフジノの魔法に対する感覚はどうしてもスケールが大きくなってしまう。


 今世は今世で、ずっと田舎暮らしで、そもそも魔法使いが身近にいなかったから一般的な魔法のレベルに触れないままだったせいもある。

 

 前世のルドルフの頃から魔法使いはそれなりに貴重で、魔法を使える者はどうしても帝都に偏る。前世の200年前は6才での魔力測定やそれに続く魔法アカデミーへの入学はなかったが、魔法の教育や仕事の機会は田舎より帝都が圧倒的に多くて条件も良かったので、やっぱり魔法使いは帝都に多かった。今は魔法アカデミーの事もあって余計に偏っているようだ。なので片田舎のフジノの実家の近辺には魔法使いなんていなかった。だから常識がずれていたのは自分だけのせいではないと思う。


(主にユリアンとラグノアと田舎が悪い)

 フジノはそう思うことにした。


(加えて、魔法のレベルが落ちてるよな……魔力の保有量も少なくなってる気がする)

 これは今日、試験会場に来て感じた事だ。帝国騎士団の入団試験とあって会場には魔法を使える騎士や受験生がちらほら居たが、総じて魔力の量は少なめだった。

 試験で披露している魔法もショボいものが多かったと思う。会場に入った時は、自分の魔力やハナノに施している魔法を見破られる事もあるかもという不安があったが、その不安はすぐになくなった。そんな力量の者がいなかったからだ。


(まあ、そもそも、見ただけで魔力や魔法を見破るなんて、ユリアンとラグノアだから出来たんだ。あのクラスはそうそういない。だから心配しなくていい)

 ユリアンやラグノアは隠蔽魔法のその下の魔法まで見破る力を持っていたが、ルドルフの時も二人以外でそんな奴はいなかった。現在のフジノも相手のおおよその魔力量が把握出来る程度だ。

 

 先ほどのラッシュの偵察は警戒しておいた方がいいが、フジノは偵察魔法は気軽に使われるものではない事を知っている。偵察は、その使い手が手練れである程、使用には慎重になる魔法だ。他人の全てを覗く事はその人生を背負う事になる、それが必ずしも楽しいものでない事は前世の記憶があるフジノには分かる。偵察は安易な好奇心では使わないものなのだ。

 (だから、まあ、大丈夫だろう。ハナノに施したいろいろがバレる事はない)


 何にせよ、偵察によりフジノへの変な疑いは晴れたし、ハナノとは同じ団にしてくれるようだ。計画とは違ったが、結果としては良かったのでは、とフジノは気を取り直す。


(そういえば、ラッシュ団長は偵察を知ってることにも警戒してたけど、あれは何でだろう)

 ラッシュとのやり取りを思い出して、フジノは疑問に思う。


(限られた血筋だけの能力で、知らない人が多いからかな。200年前の感覚でいろいろ話すのは気を付けた方がいいな)

 これからはうかつに偵察について言及しない方がいいかもしれない。その他の勇者時代の常識についても気をつけよう、とフジノは思う。


 とにかく、何とかはなった。

 

(うん、良かったとしよう)

 フジノはハナノが待つはずの会場受付へと急いだ。


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