第9話 尾行

 尾行した。

 見失うかどうか際どいくらい下がって絶対に気が付かれないよう注意を払った。

 何しろ、一度通っているから”にわか土地勘”があった。そう、怪男は清州の実家の方へ向かっているのだ。


 だが、気がついた。彼は日本人であり、土地勘も持ち始めていたので、かなり距離を置いているが、外国人はそうはいかない。

 坂上よりももっと近く尾行しているものがいた。

 しかも、明らかに異なるグループと思われる者たちが。


 そのうち一組はユーチューバーを装っているらしい。

 わざと追い抜いた。その二人は互いに小さく囁いた。

 微かに北京語を聞いたような気がした。


 追い抜いて角を曲がり、そこにいる男とすれ違った。かなり年季の入った男で、上着からソブラニーの匂いが微かにした。ソブラニー社のブラック・ロシアン。

 プーチン大統領は禁煙政策に力を入れているが、古い世代はなかなか変わろうとしないのだろう。


 さらに角を曲がって急足で回る。

 一番先頭を歩いていた怪しい男の正面にぶつかりそうになって、

「エクスキューズ・ミー」

 と言った。

 瞳はブラウン。何も応えないが、日本語でなく英語で話しかけられたことに少し警戒をしたらしい眼差し。


 坂上は飄々とすり抜ける。


 独りごつ、

「USA、ロシア連邦、中華人民共和国。なるほど」


 その日は高知で一泊した。

 悪い夢を見た。


 





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