第8話 探る

 坂上は地元の県警を通じて役場に確認し、戸籍はしっかりあることを確認した。

「公式には戸籍があれば何ら問題はない」

 清州の実家に行ってみることにした。


 いかにも旧家然とした高そうな屋敷であった。

 郷士とは言え、かなり立派だ。少し違和感を感じたが、土佐藩を脱藩した風雲児、坂本龍馬の実家も貧しくはない。それを思えば、不思議ではないのだが。


 恐らく清州が権力の頂点に立つ以前からこのように威厳のある家だったのであろう。そう思わせた。


「訪ねてみるべきか。しかし、どういう理由で? ううむ、自然に、というのは、難しいな」

 とりあえず周囲をさらりと回って通報されないうちに引き上げた。


 昼飯に酒を煽りながら、『御食事処』の中で点いていたテレビを見るともなく見た。


 アメリカはさまざまなかたちで日本政府に干渉しているようだ。関税を中心に攻め、さまざまな要求を突きつけている。

 どうやら清州は中華人民共和国を除く東アジア、南アジア、東南アジアと強く結びつく外交をし、それを成功させた。

 不思議なことだ。彼については、何もかもがうまくいく。


 また、反米を鮮明にする清州をロシア連邦や中華人民共和国は取り込もうと画策しているようであったが、一切に妥協しない清州はあからさまにこれを斥けているようだ。

 お陰で、中国のハッキングが激増した。ロシアの沈黙はまたそれに劣らず脅威の予兆だ、とコメンテーターとして招かれた全国紙の解説員が言っていた。


 坂上は店を出た。

 そのとき、ふと気がついた。

「おかしいな、あいつ」

 寂れた町の商店街をうろつく男。どこかに向かっているというふうではない。タクシーを降りたばかりだが、ここが目的地ではないらしい。そう見てとれた。マスクをしている。骨格が日本人らしくはない。帽子を深く被っていた。


 何気なく様子を見ていた。歩き出したので、少し躊躇したが、坂上も歩く。そっと。



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