第24話
そうしているうちに、糖場が思い出したように言った。
『話を戻すようだけれどさ』
「なんだよ」
『妹ちゃんさ、大好きなお兄ちゃんが誰かにとられちゃったみたいで嫌だったんじゃない?』
「そう言われても、俺にはどうしようもないだろ」
『何より気になったのは妹ちゃんの台詞だね』
「そんなに変なこと言ってたっけ、あいつ」
『ほら、私が頑張っても食べてくれなかったのに――みたいな』
ああ。
確かにそんなことを言っていた気がする。
「それが?」
『昔、何かあったんじゃない? 召野くんと妹ちゃんの間に』
「どうだろうな。それよりシールド割ったから追撃頼む」
『りょーかい』
糖場が気の抜けた返事をして、相手プレイヤーめがけて弾幕を張る。
俺はそれを援護するように自キャラを操作したが、何となく零のことが気になってゲームに集中できなかった。
※
翌日は土曜日だった。
目を覚ました俺は、スマホのメッセージアプリを確認した。
零からのメッセージは届いていなかった。
「……………」
ぼんやりしたまま、俺は光葉が作っておいてくれた煮物の残りを温めなおして食べた。
原型をとどめないほど柔らかく煮込まれた野菜は、食感が良かった。
出汁の味も染みていて、これなら野菜が嫌いな俺でも食べられる。
残っていた料理を食べても少し物足りないような気がしたので、零が買って来てくれていた栄養バーをひとつ食べた。
その後でもう一度メッセージアプリを開いて、零にメッセージを送った。
『昨日買って来てくれたやつ、ありがたく食べたから。代金は俺に請求してくれ』
しばらくの間スマホを見つめていたが、俺が送ったメッセージに既読のアイコンが付くことはなかった。
まさか無視されてる?
零、けっこう面倒くさいんだよな。一度でも機嫌悪くなるとずっとそのままだし。
どうしようか。まさかこのまま放っておくわけにもいかないだろう。
出来ればこれ以上拗れないうちに零の機嫌を直したいところだけど……。
リビングの時計に目を遣ると、まだ早朝と言っても差し支えないような時間だった。
この時間なら、零もまだ寝ているのかもしれない。既読にならないのはそれが原因って可能性もあるか。
全く、せっかくの土曜日なのに早起きしてしまった。二度寝しようかとも思ったが、味噌汁を飲んで目が覚め切ってしまっていたから、再び寝付けるような気もしなかった。
特にすることもなく、俺は零からの返信にすぐ反応できるようスマホをちゃぶ台の上に置いて、その画面を眺めていた。
「あんなに頑張っても食べてくれなかったのに、か……」
糖場が気になると言っていた、昨日の零の言葉を思い出す。
頑張っても、ねえ。
零と俺の間でそんな出来事があっただろうか。
心当たりは―――ない、いや、何かあった気がする。何だっただろう。思い出せない。だけどもう少しで思い出せそうだ。ええと……あれは確か、零が俺のために料理を……あれ、料理だったかな。違うな、料理というよりは―――。
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポ―ンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。
「うるせええええええ!!」
突然のピンポンラッシュに叫びながら玄関のドアを開けると、セミの大合唱の中、私服姿の光葉が真夏の太陽よりも眩しい笑みを浮かべ立っていた。
「先輩、元気でしたか?」
「……おかげさまでな。思ったより早く帰って来たんだな」
「はい。おばあちゃんももうすっかり元気です!」
「そうか。それは良かったな」
光葉は刺繍の入ったブラウスに紺色のスカートを着ていた。
ブラウスの素材がそうさせるのだろうか、光葉の胸元からはいつもに増して迫力を感じた。
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