3-3  雫と消えた想いの言葉

 いつもと変わらない、『アルフヘイム』。

 響いたドアベルをくぐると、カウンターの向こうのマスターが少し伸びあがった。

「萩生さん、いらっしゃい。今日は愛加里さんはまだ来ていないみたいですよ?」

「いえ、いつもの小説談義の前に別の方と会うことになってて……。彼女はちょっと遅れて来ます」

 笑顔とともに頷きながら、「どうぞ」と手を向けてくれたマスター。

 僕も笑顔を返して、「いつもの『ぬくもり』を」と付け足す。

 そうしてマスターに小さく手を挙げたところで、店の中ほどのボックス席でスーツ姿の細めの男性がパッとこちらへ目をやった。

 じっと僕を見つめている。

 あの人かもと思ってコートを脱ぎながらそこへ近づくと、男性はすぐに軽い会釈をして立ち上がった。

「恒河沙さんですか?」

「はい。すみません。お待たせして」

「いえいえ。あー、こんなにお若い方だったんですね。文体からして僕よりずっと年上かと思っていました」

 笑顔で対面の席へ僕を促した男性。

 年齢はおそらく三〇代。

 僕よりひと回りくらい上……、いや、もしかしたらもっと上かもしれない。

「飲み物はなんにされますか? ご馳走させていただきます」

「え? いえ、もう注文しましたので」

「ああ、そうですか。では、さっそく……、初めまして。ビッグプラネッツ出版の相川です」

 腰を下ろした僕に、テーブル越しに差し出されたカラフルな名刺。

『株式会社ビッグプラネッツ出版 書籍部 ライトノベルデスク チーフ 相川理人』

「恒河沙先生、お忙しいのに、時間を作ってくださってありがとうございます」

「いえ」

 その営業スマイルに、僕も笑顔を作りながら名刺を取り出す。

「初めまして。恒河沙こと、萩生翔です」

「へぇ、そこの有名な進学塾の講師なんですね。えっ……、もしかして、すぐそこの大学の卒業生ですか?」

「ええ、まぁ」

「まさか、夏目坂文芸会だったりして」

「え? えっと……、はい。一応、在籍していました。いろいろあって二年生の途中で退会しましたけど」

「そっかぁ! そうなんだね。それなら僕の後輩だ! 僕も昔は書いてたんだけどねぇ。やっぱ文才ないなって諦めて、いまは作家さんのバックアップをやっているよ。えーっと、キミ、何歳かな」

「に……、二十四です」

「ああー、じゃあ、まったく世代が重なってないなぁ」

 どういう了見だろう。

 別に、この人と同じ大学であろうと、あの夏目坂文芸会の先輩後輩であろうと、そんなことはいま関係ないと思うが。

 突然に変わった態度に、思わず閉口した。

 やや前のめりになって、相川さんが続ける。

「いやぁ、キミの『異世界遁逃譚』、すごくいいね。小説はいつから書き始めたの? 賞を獲ったことは?」

「……書き始めたのは高校生のときです。賞は……、大学生のときに、一度」 

「ほぉ、なんの賞?」

 そう言いつつ、時計をチラリと見た相川さん。

 関心など無いということが、ひと目で分かる所作。

 思わず声が低くなる。

「えっと……、それ、言わなきゃだめですか?」

 相川さんが「え?」と声なく顔を上げた。

 それからじっと僕の顔を見つめながらなにやら小さく口を動かすと、彼はその視線をテーブルの僕の名刺へと向けた。

 僕は知らぬ顔をして、カウンターのほうへ目をやる。

 すると、その僕の視界の端に映ったのは、ぎゅっと力が込められた彼の拳。

 数秒の無言。

 それから、その拳から力が抜けると、続けて彼はカップに手を伸ばしながら苦笑いを投げた。

「そうか。言うほどでもない賞ってことだね? 失礼、失礼」

 僕が獲ったのは、天下の竹邉書房と国内最大の小説投稿サイトがコラボして開催した、かなり権威のあるコンテストだ。

 そのコンテストで大賞を獲って、僕の『ぬくもりは珈琲色』は竹邉書房の文芸レーベル、『クラリス文庫』から発売された。

 言うほどでもないなんて言ったら、本気でこのコンテストに取り組んでいる作家たちを全員敵に回すことになる。

 僕はさらに押し黙った。

 店内のざわめきだけが耳に届いて、それがいよいよ空気を張りつめさせていると、突然、それを解く柔らかな香りと品のいい声が背後からかかった。

「お待たせしました」

 マスターが運んで来てくれたのは、いつもの『ぬくもり』。

 僕は、喉元に上がって来る熱い塊を抑えようと、その柔らかな香りをそっと口へと運んだ。

 同時に、相川さんが苦笑いを満面の乾いた笑顔に変えて僕を覗き見上げる。

「えっと、本題、いいかな?」

 僕もゆっくりと顔を向けた。

 眼前には、口角は上がっているが目元は笑っていない編集チーフの顔。

 彼は、カバンから透明なクリアファイルを取り出すと、そこから一枚の紙を引き抜いて、僕の前にくるりと回しながら置いた。

 メモの表題は、『恒河沙・著「異世界遁逃譚」改稿案』。

 そして、僕の怪訝な瞳をよそに、彼はお構いなしに一方的にその腹案を話しだした。

「キミの『異世界遁逃譚』、なかなかいいね。ウチの編集長も気に入ったらしくて、もう書籍化ありきで話が動き出してるんだ。すごいだろう?」

「嘘じゃないから、素直に喜んでもらっていいよ? キミの作品が本になるんだ」

「それでね、書籍化にあたっての相談なんだけど、少々改稿をお願いしたくてね?」

「あの、エパピアラ王に謁見する話があるじゃない? あの辺で一度物語を切って、文庫本一冊目にしたいんだ。うまいことクライマックスを作ってくれないかな」

「それと文体がかなり重いので、もうちょっとライトなテイストに仕立て直してくれるとありがたいんだけど」

「まぁ、知ってると思うけど、ウチの読者層はかなり若くてさ。あの文章は独自のいい雰囲気を醸してはいるんだけど、ほら、ウチの読者にはちょっと難しいと思うんだよね」

「それと、キャラ設定もちょっと変えて欲しいんだよ。女子中学生が喜びそうなイケメンキャラを前面に立てたいんで、ジャンパオロをもうちょっと二枚目にして、フィーリアス船長ももう少し若い設定にしてさ」

 まったく響かない、数々の言葉。

 この人がしているのは『ビジネス』の話で、それを僕はいま、『クリエイター』として聞いている。

 プロの作家であれば、この『ビジネス』の部分は大いに留意しなければならない要点であるし、出版社の『売り方』は、ひいては自分のにも係わってくる重要な要素だ。

 しかし、いまの僕は単なる素人。

 『ビジネス』として、自尊心の一部を削らなくてはならない『ビジネスクリエイター』とは違う。

 それに、かなり読者を見下している。

 僕の『異世界遁逃譚』の読者には、中学生の子もたくさん居る。

 応援のメッセージをもらったり、SNSでリプライをくれる彼らは、充分に僕の作品を理解してくれている。

 もちろん、読み手の趣向や理解力に留意するのは、書き手としては当然のテクニックだ。

 しかし、読み手を見下して、それに合わせて作品の質を下げろというのは、少し話が違う。

「どうかな。キミの文才ならこれくらいの改稿は大したことないと思うんだけど、二か月くらいでやれない?」

 さらに、無言が後を継いだ。

 カウンターでは、マスターがカップを拭きながらチラリと僕の様子を窺っている。

「あの……、ちょっといいですか? なんでもう、書籍化することが前提の話になっているんでしょうか」

「え?」

 僕の問いに、口を開けた彼。

「なんでって……、キミ、もしかして乗り気じゃないの?」

「そうですね。今日は、このお話をお断りするつもりでここへ来ました」

「はぁ? キミ、なに考えてんの? 書籍化だよ? 書籍化! キミの小説を本にしてやろうってんだよ? 素人作家のくせに、これを喜ばないなんてどうかしてないか?」

「すみません。大きな声を出さないでくれませんか?」

「あ?」

 思い切り顔を歪ませた相川さん。

 そのときだ。

「ちょっとっ! 萩生先生っ! どうして断るのっ?」

 背後から響いた、相川さんよりももっと大きな声。

 思わず振り返る。

 するとそこには、カモメのように眉を吊り上げている彼女と、愛らしいひとつ結びが……。

「うわ、湊さんっ? え? 愛加里さんも?」

「ワタルくん、彼女、まだ話が終わってないからお店に入るなって言うのよ? うるさいから無理やり入って来ちゃった」

「オバサン、邪魔しないでよっ! もうっ、萩生先生っ? せっかくわたしが編集さんに掛け合ってあげたのにぃ! どうしてぇ?」

 そう言って、ガバッと僕の腕に抱き付いた湊さん。

 思い切りのけ反ったが避け切れず、席へと押し倒される。

 同時に愛加里さんが、彼女の襟首を掴んだ。

「こら、ワタルくんが嫌がっているじゃない! ワタルくん、もうお断りしたんでしょ? 今日はこのまま帰ろう?」

「いやぁ! 萩生先生が書籍化OKして、わたしの小説の先生になってくれるまで帰っちゃダメー!」

 見ると、相川さんがぽかんと口を開けていた。

 そうか。

 湊さんの本は、ビッグプラネッツの発刊だ。

 この書籍化オファーの話も、彼女がこの編集者に頼み込んだものに違いない。

「あの……、湊さん、ごめんね? 僕は――」

 湊さんを押し返しながらふと見ると、なぜか相川さんが湊さんを通り越した僕の背後へ目を向けていることに気がついた。

 じわりとその視線を追う。

 するとそこには、湊さんから手を離し、口を一文字にして立ち尽くしている……、丸い小さな肩。

 聞こえた、低い声。

「どうして……、キミがここに居るんだ? 愛加里くん」

「ビ……、ビッグプラネッツの編集者って、あなただったんですか。ご……、ご無沙汰しています。えっと……、相川さん、もしかして竹邉は辞めたんですか?」

「え? 違うよ。僕は事業提携の関係でいま竹邉からビッグプラネッツに派遣されてるんだ。それよりもキミ……、この生意気な素人作家と知り合いなの?」

「知り合いというか……、えっと……、その……」

 目を泳がす愛加里さん。

 なんなんだ?

 どうも、愛加里さんはこの相川チーフ殿と知り合いらしい。

 一瞬の沈黙。

 そして、相川さんが小さく唇を震わせ始めると、突然、愛加里さんが顔を上げた。

 その両手がガバッと湊さんへ伸びる。

「ちょっとっ! あんたどきなさいっ!」

「うわっ、なにすんのよっ、オバサンっ!」

 次の瞬間、子猫のように首を掴まれて浮き上がった湊さん。

 同時に、湊さんを背後へ押しやった愛加里さんが僕の腕を奪って押し座った。

 目を丸くする編集者。

「えっ? えっ? もしかして、愛加里くん、キミ……」

「はっ、はいっ! この人はっ、あああ、あたしのっ、かっ、かっ、かっ」

 なんだ?

 さっぱり意味が分からない。

「かっ、かっ、彼氏ですっ! あああ、あたしのっ、彼氏っ!」

 は?

 突然、ドドンと落ちた雷。

 一呼吸おいて、その電流が周囲に走る。

 「はぁ?」と口を開けた相川さん。

 「はぁぁぁ?」と腰を抜かす湊さん。

 愛加里さんは頬を真っ赤にして、ぎゅっと僕の腕に抱き付いたまま相川さんを睨んでいる。

 どういうことだ?

「相川さんっ、ごめんなさい。そういうことなので、あたしはあなたとのお話に応えるつもりはまったくありませんっ!」

「なに言ってるの? 僕は社長から……、いや、キミのお父さんから直接言われているんだよ? キミの相手は僕しか居ないって!」

「あたしは、もう竹邉には戻りませんからっ……、その話は意味がありませんっ」

「その素人と一緒になりたいからかい? キミはまたも物書きに騙されるっていうのかっ? 物書きは嘘つきだ! 信用するなとお父さんから散々言われたろうっ?」

「あっ、あたしはその傲慢な父の呪縛から逃れるために、いま頑張っているんですっ! その手助けをこの彼はずっとしてくれていますっ!」

「呪縛っ? キミがそんなこと言ってるって知ったら社長は激怒するぞっ?」

 いよいよ、なにがなんだか分からない。

 振り返ると、湊さんが泣きべそをかいていた。

「ひっ……、ひっ……、萩生先生、書籍化を断るなんて……、ひどい。これからもっと有名になって、本が売れて、アニメになって、それから……、あたしの旦那さまにもなってくれるはずだったのに」

 ものすごく勝手なことを言っている彼女。

 すると、それを聞いた相川さんが大きな溜息をついた。

「なんだお前、コイツにそんな実力があると思ってたのか? コイツはなぁ、お前と一緒だよ。あの変な大学生にぜんぶ書き変えてもらったお前とな」

「はぁ? わたしっ、書き変えてもらってなんかないっ! ちょっとだけ鬼泪山ちゃんに手伝ってもらっただけよっ!」

「ふん。お前が高溝和馬の孫じゃなかったら、さすがに経営不振のビッグプラネッツだってあんな駄作を本にするわけないだろ。思い上がるのもいい加減にしろ」

 そう吐いて捨てたビッグプラネッツのチーフ。

 同時に、彼は僕に渡した名刺を拾い上げて造作なくカバンに放り込み、それからこれ以上ない侮蔑の眼差しを僕へ向けた。

「それと……、おい、塾講師」

 震えている、愛加里さんの肩。

 その肩をそっと引き寄せて相川さんを見上げると、彼は低い声をさらに低くして、見下ろした僕へそれを冷たく吐いた。

「お前も思い上がるのはいい加減にしろよ? どうせ愛加里くんに取り入ったのも、彼女が竹邉社長の娘だからだろ? 俺はその社長から直々に彼女を頼むと言われているんだ。ゆくゆくは彼女と一緒に竹邉書房を背負ってくれってな」

「愛加里さんが……、竹邉社長の娘?」

「おいおい、いまさらそんな臭い演技はやめてくれ。とにかくな、いずれ竹邉を継ぐ彼女とお前なんかじゃ釣り合いが取れないんだよ」

 さらに、じわりと僕の腕が彼女へ引き寄せられた。

「まぁ、お前が文学賞でさらりと大賞を獲るくらいの実力者なら、竹邉社長も少しは話を聞いてくれるだろうけどな。しかし、あんなしみったれた異世界を書いているお前には無理だな」

 そう言って、はらりと僕の名刺をテーブルへ投げた彼。

「愛加里くん、また今度」

 突然の柔和な声。

 相川さんはトンと彼女の肩を叩いて、それからゆっくりと歩きだした。

 震える愛加里さん。

 湊さんが勢いよく立ち上がる。

「あんたのこと、おじいちゃまに言いつけてやるんだから!」

「勝手にしろ。そしたら、お前の小説はゴーストライターが書いたやつだってネットで流してやる。しかもそれがミステリーの大御所の孫だってな」

 そうして、カウンターで無表情のマスターに代金を払うと、相川さんはドアベルを勢いよく鳴らして『アルフヘイム』を出て行った。

 続けて、柔らかな笑顔をこちらへ向けてくれたマスター。

 その穏やかな笑顔が、言葉を失っていた他の来店客たちにも笑顔を取り戻させたのは、それからしばらくしてのことだった。




「ワタルくん、えっと……、ごめん」

「なにが?」

「え? その……、彼氏とか言っちゃって。あの、あたしね……」

 愛加里さんの駅。

 ラッシュを過ぎて閑散とした電車がここまで僕らを運んでくれた間、愛加里さんはずっと無言だった。

 きっと、いろいろ言えない事情があるんだろう。

 それは、誰にだってある。

 僕は、敢えてそれを彼女に聞こうとは思わない。

 彼女のことを想えばこそ、彼女が自分から話してくれるのを待つべきだ。

 そんなことを考えつつ、ずっと無言で彼女に寄り添った車内。

『あたし、ちょっといろいろあって、どうしても今年度中になにか賞を獲らないといけないのっ』

 僕に、僕の文章の書き方を教えて欲しいと言った愛加里さんは、確かにそう言った。

 もしかして、それが『傲慢な父の呪縛から逃れるため』の手段なんだろうか。

 だとすれば、今度の竹邉ノベルズ文学賞でなにも賞を獲れなければ、彼女はその手段を完全に失ってしまうということになる。

 電車が駅について彼女がホームへ降りたとき、僕は一瞬ためらった。

 このまま見送るべきか、それとも――。

 しかし、気がつけば僕は彼女とともにプラットホームに立ち、そして彼女の手をぎゅっと握り締めていた。

「いいよ。なにも話さなくて」

「ううん。さっき相川さんが言ったことは……、本当のことなの。あたしは、株式会社竹邉書房の社長、竹邉英雄の娘で……、いずれあの会社を継がなくてはいけなくて……」

「そうなんだ。でも、それ、僕には関係ない」

 関係ないなんてことはない。

 愛加里さんの笑顔を、春になっても、そのあともずっとそばで見ていたいと願っている僕に、彼女のその出自が関係ないはずがない。

「そうだよね。ごめん、ほんと関係ない。だから……、忘れて。ワタルくんを巻き込みたくないから」

「関係ないっていうのは、そういうことじゃなくてさ。愛加里さんは僕にとって、大社長の娘でも、総理大臣の娘でも、なにも変わらない愛加里さんだってことさ。そして――」

 見えた、ホームの端・

 僕は階段の下り口まで来て、おもむろに立ち止まった。

 先に階段を降りかけていた愛加里さんが、それに気がついて足を止める。

 振り向いた、愛らしいひとつ結び。

「――そして……、僕は、叶うことなら、春になってもずっとキミと一緒に居たい」

 じわりと、瞳を大きくした愛加里さん。

「ワタルくん……」

「でも……、愛加里さんの心の中に、『僕じゃない大切な誰か』がいまも住んでいるのなら……、僕にその資格は無いのかな……」

「違う……。資格が無いのは……、あたしのほう」

 僕を見上げる、その瞳。

 ちょうど反対側のホームに、都内向きの列車がゆっくりと滑り込む。

「いまも、大切に想っているんだよね?」

「ワタルくん……」

「キミとお父さんの苗字が違うのと、『また物書きに騙されたいのか』って言葉で、すぐに分かったよ」

 彼女の瞳は、ホームを浮かび上がらせている照明の光をかすかに反射していた。

 僕は小さく笑みを作る。

 そして、僕のその笑みを受けた彼女の瞳が、浮かぶ光と共にゆらりとした。

「そう……。あたし、未亡人なの」

 どこかから小さく聞こえた、車のクラクション。

 愛加里さんの瞳は揺れる光を留めきれなくなって、ついにそれを美しいその雫に乗せると、静かに、そして厳かに頬へと送り出した。

 それから僕はゆっくりと彼女を引き寄せて、その雫の光が夜に吸い込まれて見えなくなるまで、ただただ、彼女を抱きしめてそこに立ち尽くしたんだ。

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