第3話 ムムーシィー現る

 俺たちの地元は海沿いにある小さな街だ。

 少子高齢化が進む過疎地。

 辺りにはダンジョンが少ないため、若者たちはダンジョンを求めて殆ど上京してしまうのだ。


 俺とプリナはとある薬屋を訪れた。

 別に薬が欲しいんじゃない。店のおじさんに挨拶を済ませて、二階へ上がる。


 ノックして扉を開けると、水色の髪の美女が、ベッドに寝転がっていた。

 全裸で。


「んあ?」


「よ、ムムーシィー」


「おぉ!! 一年ぶり〜」


 俺にとっちゃ三六六年ぶりなんだが、こいつのことは昨日のように思い出せる。

 いや、『ことも』か。

 割と修行前の記憶が鮮明なのは、時間操作魔道具の力なのか、はたまたデメリットによって培ったものを失ったからなのかは、わからない。


「やっぱり服着てなかったな」


「へへ〜」


 彼女はムムーシィー。

 一応、俺の幼馴染。


 こいつ、基本部屋に引きこもっているせいか知らないが、だいたいいつも全裸だ。

 しかも無駄にエロい体をしているのが腹立つ。

 デカい胸。少しだらしない腹。ぶっとい太もも。デカい尻。

 男ウケ抜群のむちむち具合だ。


 かなりスタイルが良いのだが、ぶっちゃけ見慣れた。


 もはやこいつに性的興奮することは断じてないだろう。

 したときは精神が限界を迎えている時だろうな。鬱病一歩手前ぐらい。

 あれ? それって今じゃない? 一年の努力が無駄になった今じゃない?


 おかしいな、今日に限ってムムーシィーがえっちに見えてきた。

 マズイな、プリナの顔を眼に焼き付けて精神を浄化させないと。


 ムムーシィーは起き上がると、プリナを抱きしめた。


「会いたかったよおプリナちゃん。相変わらず可愛いね」


「あ、ありがとうございます」


「チューしていい?」


「それはちょっと……」


「そんな〜」


「私、まだお兄ちゃん以外の人とチューするのには抵抗があって……」


 ちなみに変な意味じゃないぞ。

 兄妹の寝る前の軽いスキンシップくらいのチューだし、ここ数年はしてないぞ。


「うぇーん。……んで、何のよう?」


 急に冷静になるな。


 こいつは口が硬いし信用できる。

 俺は事の顛末を、ムムーシィーに伝えた。


「マジ!? じゃあスタリ山脈が更地になったのって……」


 恥ずかしげに、プリナが手を挙げる。


「他国の最新兵器だとか魔族の仕業だとか、いろいろ噂されているんだよ!?」


「ごめんなさい……」


 どうやらプリナの仕業だとは、誰にも知らないらしい。


「うーん、でもプリナちゃんがそんなに強くなったなんて……さすがプリナちゃん!! チューしていい?」


「それはちょっと……」


 本題に入ろう。

 ムムーシィーは無類のダンジョン配信好きだ。

 毎日家から出ずにずーっと配信を視聴しているのだ。全裸で。


 それ故に、ダンジョン関連の知識は俺より圧倒的にある。


「改めて、インベーダーズに入団する手段を知りたい。俺はもともと、メンバーの一人をぶっ倒して入れ替わる予定だったが、他にもあるんだろ?」


「まーね。確かに、プリナちゃんがインベーダーズの誰かと決闘して、手加減なしの全力ぶっぱをかましたら、間違いなく人型魔族だと思われるね」


「うん」


「たぶん死者もでるし、街一つ壊滅する」


「……うん」


「じゃあダンジョン配信をしよう」


 とある魔道具を用いれば、攻略の様子を配信することも、視聴することもできる。


 元々、ダンジョン攻略遠征の様子を外にいるメンバーが知るために開発された魔道具なのだが、一般化したのだ。


 いまじゃ進化を遂げて、コメントを送信したり金を寄付することも可能になっている。


「あ〜、俺もやろうと思ってた。名を売りたくて」


「さすがカルト。そうそう、有名になれば、インベーダーズ側から入団テストの招待状が届くの。ザコモンスター相手に手加減の仕方を覚えつつ、有名になっていく。てのはどう?」


 インベーダーズの団員相手に、微妙な力加減で戦うのはプリナには無理だろう。

 舐め過ぎればさすがに負けるかもしれないから。


 なら、どんなに力を抜いても勝てるモンスターを手加減の練習相手にしつつ名を上げるのは悪くない案だ。


「でもさ、あんまり目立ちすぎると人型魔族だって疑われるんじゃないか?」


「そのための手加減でしょ? どのみち、インベーダーズに入るなら避けては通れない道だよ。人型魔族だと疑われないように、手加減をするのは」


 確かにな。

 ちなみに、勝手に最難関エクストラダンジョンに潜るのは重罪だ。

 警備に発見されたら即逮捕。


 抵抗すれば問答無用で全国指名手配。

 地上には戻ってこれなくなる。


 インベーダーズだけなのだ。

 特別に許されているのは。

 なんせ、ダンジョン管理委員会が直々に結成した、世界最高峰のパーティーだから。


「冒険者ランクは関係ないんだろ?」


 ダンジョンの攻略や持ち帰った品々に応じて、冒険者ランクなるものがアップする。

 ちなみに、SからCまである。


「もちろん。たとえCでも実力があったり、最難関ダンジョン攻略に役立つ特技なんかがあれば、招待されるよ」


「よし。何にせよ、プリナには実戦を覚えてもらわなくちゃいけないし、配信をしよう。プリナ、それでいいか?」


 プリナがコクンと頷く。

 本当に大丈夫だろうか。やけに真剣な、思い詰めた表情をしているが。


 元来、ダンジョン攻略やら戦闘なんてやらないような子だったが、変な責任を感じているのかもしれない。


 それに、行方不明の母さんを救いだすという使命もあるし。


 ムムーシィーが俺を指差す。


「それより〜、カルトくんはどうすんの? 最弱になっちゃったんでしょ? プリナちゃんがめでたくインベーダーズに入団したら、終わり?」


「できれば……俺も側にいたい。プリナを一人にするわけにはいかない」


「ならプリナちゃん問題より君自身の方が大変じゃん。どうするの? 一から剣術を鍛え直すの?」


 そんな時間も才能もない。

 正直、俺は非力だし、運動神経も鈍い。

 反則みたいな修行があったから、最強になれたにすぎないのだ。


 その反則が使えない以上、別の手を考えるしかない。


「プリナの手加減修行をサポートしながら、考えていくよ」


「ん。あれ、ちなみに冒険者ランクは?」


「Cだ。同じダンジョンにずっと籠ってたし、配信もまったくしていなかったからな」


「あらあら。配信くらいしとけば、これから有名になる作業が省けたのに」


 俺の秘密の修行を教えたら、みんなしてあのダンジョンに来ちゃうだろうが。

 邪魔すぎて集中できなかっただろう。


「プリナ、とりあえずいまからダンジョンに行くぞ」


「う、うん!!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

作者は橋本環奈のクローンなのですが、家では全裸です。

この作品においてはお金を送るコメントを『お布施コメント』と呼びます。

仏教用語ですが、たまたま似た意味と文字の言葉があったことにします。


応援よろしくお願いします。


♡とか☆とかコメントとかフォローとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る