第4話 初配信で初手加減!!

 なにはともあれダンジョンに行こう。

 てなわけで、俺とプリナは地元にある二つのダンジョンの一つ、『墓地地下水路ダンジョン』に入った。

 ちなみに、もう一つは先日プリナが崩壊させた。


 元々は自然にできた地下洞窟ダンジョンだったのだが、昔の人が水路に改造したのだ。

 つまり、それくらい浅く、弱いモンスターしか出てこないということ。


 光を放つ魔道具を手に、舗装された薄暗い道を進む。


「プリナ、怖くないか?」


「こ、ここ、おばけとかでるかなぁ?」


「モンスターしか出ないんじゃないか?」


「な、なら大丈夫……だよ」


 モンスターならいいんだ。

 さて、さっそく配信をはじめてみよう。


 懐から球状の魔道具を取り出す。

 ボタンを押すと、球はふわふわと宙を舞った。

 アレが俺たちの様子を撮影し、自動で配信をしてくれるのだ。


 指輪型の魔道具でステータス表示魔法を発動し、配信用魔道具とリンクさせる。

 これで配信画面が表示される仕組みだ。


「とはいえ、配信なんてやり方知らないしな。視聴者もいないし」


「でも、ムムーシィーさんが、ほっとけば増えるって言ってたよ?」


「そんなもんか?」


「えっと、『汚れた世界に染まってない素人女性配信者からしか得られない栄養』を求めて、男性視聴者が増えていくって」


「業が深いな」


 まあ、こっちから何かアクションを起こせるほど配信に詳しくないし、文句も言っていられないが。


 さらに水路を進む。

 そろそろモンスターの一匹でも出てきていいころだ。


「いいかプリナ。いまのお前なら、軽く叩くだけでこのダンジョンのモンスターを全滅できる。力まなくていい」


「わ、わかった。軽く……軽く……」


 心なしか、ただでさえ小柄なプリナがいつもより小さく見える。

 緊張と恐怖で萎縮しているのだろう。

 プリナは、ロクにモンスターと対峙したことも、喧嘩もしてこなかった女の子なのだ。



・初コメ


・どこここ


・初心者?


・かわいい


・男は誰? 彼氏?



 ん、俺の画面にチラホラコメントが流れてきた。

 反応すべきなのだろうか。


「えっと、どうも、カルトです。こっちは妹のプリナ」


 配信魔道具に向かって、兄妹揃ってぺこり。


「プ、プリナです」



・かわいい


・小さいね


・何歳?


・歳は?



「あ、13歳です」



・13!?


・じゅうさんさいだああああ!!


・13歳♡♡


・うおおおお!!!!



 どこに興奮してるんだよこいつらは。

 13歳だと何かあるのかよ。

 まぁいい、とにかく挨拶は済ませた。


「お兄ちゃん」


「どうした?」


 プリナが前方を指差す。

 おぉ〜、普通のスライムがおいでなすった。

 レベルはおそらく3程度。レベル1になった俺でも、頑張れば倒せるザコモンスターだ。


「あいつを倒してみよう」


「……や、やってみる!!」


 気合いを入れたな。

 手加減の練習には持ってこいの相手だ。



・なんか色変じゃね?


・若干赤いぞ



 赤い?

 言われてみればあのスライム、普通は青色なのにどことなく赤い気がする。

 待てよ、赤……赤色って……。


「はぐれ魔族だ!!」


「へ?」


「遠征隊の過去の配信や図鑑で見たことがある」


 最難関エクストラダンジョンから抜け出した、凶悪な魔族だ。

 もちろん、普通のスライムとは明らかにレベルが違う。


 最低でも70以上。

 A級冒険者でも束になって戦う相手だ。


 赤色スライムが液体を吐き出した。

 なんでもドロドロに溶かす硫酸だ。


「プリナ!!」


 プリナの全身が濡れる。

 が、


「う、冷たい」


 溶けて、ない……。

 したたり落ちた水滴は、水路の舗装された地面をぐつぐつにしているのに。


 さすが史上最強。

 ちなみに服も溶けていない。

 不思議だね。

 残念だったね視聴者諸君。


「気をつけろプリナ。そのスライムは全身が強力な酸で構成されているうえに、危険を察知すると放電までする」


「ひえぇ……」


 とはいえ、いまのプリナなら確実に勝てる。

 心配する必要もないか。


 恐る恐る、プリナが赤色スライムに近づいていく。


 バチ、バチと音が聞こえてきた。放電しているのだろうが、プリナにはまったく効いていない。


「軽く叩くんだ!! 冗談を言う友達を軽く叩くくらいの気持ちで!!」


「え!? む、無理だよお兄ちゃん!! 私、友達いないから、そんな気持ちわかんないよ!!」


 悲しいこと言うなよプリナちゃん。


「んー、拍手するときの感じ!!」


「なるほど!! やってみる!!」


 プリナは大きく深呼吸をして、気合いを入れた。



・え


・剣使わないの?


・おいおい、はぐれ魔族を知らないのか?


・A級でも苦戦する相手だぞ。すぐに逃げろ


・死ぬぞ



 おいおいみんな心配しすぎだろ。

 プリナは最強なんだぜ?

 おそらく人型魔族だって余裕で……。


 うわ、やべ。

 そうだ相手は高レベルモンスターなんだった。

 勝てる勝てないの話じゃない。

 いくら視聴者が少ないとはいえ、これじゃあ目立ちすぎてしまう。


 人型魔族だと疑われる!!


「ま、待てプリナ!! やっぱり待て!!」


「スライムさん、ごめんなさい。……えい!!」


 プリナのゆっくりビンタが炸裂。

 ぺちん、という情けない音と共に、赤色スライムは一瞬にして破裂し、消滅した。


 文字通り、消滅した。

 チリも残さず。


 そのうえ、ゆっくりビンタの衝撃が、ダンジョンの奥まで響き渡り、


 みしみし。


 と嫌な音を天井から奏でさせた。

 これ、もう少し力んでたら、ダンジョンを崩落させるところだったよね。

 ってそれどころじゃない!!



・え?


・なにが起きた?


・スライムが消えた


・ん?????


・倒した? 初心者なのに!?



 やばいやばいやばい。

 みんな動揺している。

 脳みそが『?』で埋め尽くされている。


「ふぅ、なんとかなったよ、お兄ちゃん!!」


「プ、プリナ……」


「ん? どうしたの、お兄ちゃん?」


「いや、俺の指示ミスか……」


「わ、わたし、なにかやっちゃった?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

遠征隊に入る近道として、配信をして名を売らなきゃいけない。

けど配信をしていたら、異常な強さが世間に知れ渡るかも。


なんだか不器用ですね。


この世界は、ステータス表示魔道具と配信視聴魔道具がかなり普及しています。

日常的に使える機能が盛り沢山なのです。

現代のスマホのようなものです。


応援よろしくお願いしますっ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る