第12話

***


「朔ちゃん、保育園から電話だよ」


「保育園からですか?」


「緊急のようだから早く電話に出て」


開店前に調理場で野菜の下処理をしていたところ、事務室にいた店長がやってきて子機を私に差し出してきた。


そういえば、携帯をロッカーの鞄に入れたままだった。きっと携帯の方に連絡をくれたが、私が出ないので勤め先にかけてきたのだろう。


熱でも出したのだろうか。それともケガ? タオルで水気を取ってからその電話に出た。


「もしもし? 西野にしのです。息子がお世話になっております」


『あ、西野さんお仕事中すみません。担任の倉橋くらはしです』


先生の声には緊迫感が漂っている。


「なにかあったんですか?」


「実はひよこ組で外に散歩に出かけている最中に車が列に突っ込んできて……今、桜ケ丘さくらがおか病院にいるんです」


「え?」


まさかの事態に頭が真っ白になり血の気が引いていく。


う、そ……、まさか星来の身に……。


吐き気さえもよおしそうになるくらいの動揺が私を襲う。


「む、息子は無事ですか?」


動揺から震える声でそう尋ねた。


「はい。命に別状はありません。ただ星来くん、混乱の中で転んでしまい頭を打ってしまっておでこに傷が……。私が付いていながらこんなことになってしまい申し訳ありません」


命に別状がないと聞いて正気を取り戻したが、息子の顔を見なければ安心できない。


「連絡をいただきありがとうございます。今からそちらに向かいます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る