第7話

そのことがあって私は前職を辞め、今の職場に転職した。


弁当屋を経営する五十代のご夫婦がとても理解のある方たちで、子どもの行事にも行くことができ、今は母として最低限の役目は果たせている。


それでも完璧には振る舞えない。そして、いつかは星来に父親のことをきちんと説明しなければいけないときが来るだろう。


そのときに彼が、父親に会いたいと言ったら私はどうすべきなんだろう。


隣ですやすやと眠る星来を見つめる。


ますますあの人に似てきた。


「恭一郎さん……」


かつて心から愛した男性の名をつぶやいた。


彼にはなにも伝えずに、星来を産んだ。それからシングルマザーとして、息子を育ててきた。


恭一郎さんはなにも知らない。


あんなにもお世話になっておきながら、私はなんの恩返しもせずに黙って彼のもとを去った。きっと、怒っているに違いない。


自分に子供がいると知ったら、彼はどんな感情を抱くだろうか。


彼ならきっと……。


だから、言えない。


一生、彼に伝えるつもりはない。


それが恭一郎さんを守る唯一の方法なのだから……。

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