第95話 冴子

 朱良が言う夕飯は、パーティーだった。母屋のホールに立食用の料理が長いテーブルに用意されていた。以前の道場なら考えられない。このような人が集まるときは妙が用意したてんぷらや煮物が振る舞われたものだが。


 参加者の皆が小ざっぱりした装いをしていた。会場には広瀬や斉藤を含めて、常設隊や護衛隊の主な面々がおり、残りは道場の外を警備していた。


 駐車場のすぐそばに正森ネットワークの事務所の建屋があり、無線でしきりに連絡を取っているようだった。


「弘樹、紹介したい人がいるの」と朱良。


「だれ?」と弘樹。


 誰かがホールに入ってきたようだった。純子と蘭に付き添われて女が弘樹に近づいてきた。


「紹介するわ」と朱良。「藤堂冴子さんよ。今日からここに住んでもらうの。」


「初めまして」と冴子。「ご当主様。」


 弘樹は絶句した。髪形が変わっている。化粧も少し控えめだが、美津子だった。


「死んだはず……」と弘樹。


「大丈夫って言ったでしょ」と冴子。


「なんで連絡くれなかったんだ!」と弘樹。


「ごめんなさい」と冴子。「心配してくれたの?」


「あたりまえだ」と弘樹は涙ぐんだ。「死んだと思って……、死んだと思って……。」


「ありがとう」と言って冴子は弘樹に近づいて肩に手を乗せた。弘樹は冴子の胸に抱きついて声をあげて泣いた。


「ご当主様、約束を守ってもらうわ」と冴子。「あなたが私を匿ってくれるんでしょう。」


「うん」と弘樹。


 空港のゲートをくぐった後、美津子はトイレで影武者と衣装を交換して入れ替わった。爆発物で死んだのは影武者のほうで、本物は別働隊の朱良と順子が護衛して逃げたのだという。それから今日まで朱良と順子が付きっきりだった。


「ありがとう、弘樹君」と冴子。


「ここは今日から道場の宿舎という扱いになるわ」と朱良。「それからもう一人、江川緑さん、冴子さんの身の回りのお世話をしてくださるわ。」


「よろしくお願いします」と緑が頭を下げた。冴子とそっくりの背格好と顔立ちをしていた。

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