第2話


目が覚めた、というより意識が覚めた。

勢いよく起き上がる。

ずいぶん長らく寝ていたのか、

気がつけばまた走行中のバスの中だ。

変わらない景色。とは言っても

走っているその道はまるで

漆黒の森の中を走っているかのよう。

周りの人間は、と私は車内を見渡す。

皆呆然とただ前だけを見ている。

それに気がついた後ろの席の力石が

私に声をかけた。

「幸村さん、7日も寝てましたよ」

私はえ、と困惑しながら

スマートフォンを見る。

確かに7日後の世界に私はいる。

「死んだんですか?」

と私は皆に問うように言った。

「そう、死んだ、見てくださいよ自分の心臓」

と後ろの方の席の志摩が言う。

私は慌てて自分の胸の部分を見る。

そう、私はその寸前誰かに刺されたのだ。

正体を確認することなくバスは落ちた。

「最悪、早く帰りたい」と岩寺が嘆く。

「みんな死んだんだよ」

と一番後ろの席の堀江が言う。

「何でそういうこと言うの」

と前方の席の水野が言う。

「まだ死んだって、確証はないじゃない」と。

「じゃあ何なんだよ、この道は。

永遠にこの道を走ってる」

「知らないわよ」

険悪なムードの最中、

私は空気を乱すようなことを言った。 

「いや、こんな時に申し訳ないんですけど、

自分を刺したの誰ですか?」

一瞬で静まり返る車内。

俺じゃない、と前の席の田中は言う。

石井もうんうんと頷く。

「そんな、みんな死んでるんだし、

関係なくない?」と岩寺が言う。

まあ、そうか、

と一瞬ばかり思ってしまったが違う。

この何とも言えない歯痒さは、

そこから来ている。

特に恨みを買うようなことはしていないし、

人は嫌いな方だ。

そんな自分が何故、

この車内にいる人間に刺されたのか?

孤立無援の大学生活において

憎しみからは程遠い場所にいたが。

隣の向かいの席の臼井は、私の目を見て、

「私は協力します」と言った。私は頷いた。

そう、私が楽しみにしていた

ドラマの最終回から1週間が経っている。

結局犯人は誰だったのか、

それが今自分の目の前にある。

「犯人探しって言ってもさ、

名乗りあげるわけないでしょ」と志摩は言う。

それはそうだ。

そんな利口な犯人はいるはずがない。

それでも走るバス。

確かに私たちは永遠に繰り返しているのか。

輪廻転生がない派の人間は無に還るという。

それのことかと私は思った。

私はどうにかして犯人を見つけたい。

しかしこの密室の車内だ。

嫌な感じにだけはなりたくはない。矛盾。

私は頭を抱えた。

その直後前に座る石井が立ち上がり、

前方へ向かった。運転席の方だ。

彼は驚きながらこう言った。







「水瀬さん、いないですよ」






    |   水瀬(運転手)


水野  |石井 田中

臼井  | 幸村

岩寺  |   力石

  志摩|添西

     堀江










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Skeleton's 雛形 絢尊 @kensonhina

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