第19話 因縁の戦い

 六平直政似の男、その正体は田熊のかつての仲間であり、かつては「影の組織」と呼ばれる秘密結社の幹部として、田熊と共に数々の任務をこなしていた人物だった。彼の名は黒井宗一。田熊とは深い絆で結ばれていたが、ある事件をきっかけに組織を裏切り、姿を消したと言われていた。


 数年前、田熊と黒井は危険な任務に挑んでいたが、その作戦中に組織の内部抗争が発生し、黒井は命令を無視して独自の行動を取った。これにより、作戦は失敗に終わり、多くの仲間が犠牲になった。田熊は黒井を信頼していたが、その裏切りに激しい怒りを抱くことになった。


 黒井はその後、「影の組織」から離れ、忍者たちを率いる新たな勢力を築いていた。そして、今もなお影から世界を操る野望を抱いていたのだ。六平直政似の男として現れたのは、田熊への挑戦状であり、自身の野望を成就するための最後の試練でもあった。


「田熊…お前には理解できないだろう。この世界を変えるためには、影から支配するしかないんだよ」と黒井は冷ややかに言い放つ。


 田熊はその言葉に静かに拳を握りしめ、「お前のやり方にはもうついていけない。昔の仲間として、ここでお前を止める」と決意を固める。黒井と田熊、かつての盟友同士の因縁の戦いが、今まさに密室で繰り広げられようとしていた。


 辻希美似の女性の正体は、かつて田熊と黒井宗一が所属していた「影の組織」の元メンバーであり、白石美咲という名のエージェントだった。彼女は任務中に負った傷が原因で一度は組織を離れていたが、組織が解体する際に重要な機密情報を持ち逃げし、消息を絶っていた。


 美咲は黒井と共に影の組織で長く活動しており、田熊とも過去に協力して危険な任務をこなしていた。彼女は任務の遂行だけでなく、仲間たちの支えとなる存在で、田熊にとっては信頼できる戦友であり、密かに心を寄せていた相手でもあった。しかし、組織の内部抗争が激化した際、美咲は田熊に告げずに黒井と共に姿を消し、その後の行方を追う者も少なくなかった。


 密室に現れた辻希美似の女性の正体が美咲だと知った田熊は、一瞬言葉を失う。そして彼女が、黒井の新たな組織に身を投じ、彼の計画を支える立場にあることに愕然とした。


「美咲…どうしてお前がここにいる?」田熊は驚きと疑念を含んだ声で問いかけた。


 美咲は一瞬だけ戸惑いの表情を見せたが、すぐに冷たい微笑みを浮かべ、「田熊、私はもうあなたと同じ道を歩むことはできない。黒井さんと共に新しい世界を作るため、私はここにいるの」と言い放つ。


 田熊はその言葉に深い失望を感じながらも、「お前が選んだ道なら、俺はもう止めない。だが、俺の信じる道を貫くために、お前とも決着をつける」と静かに決意を示した。


田熊と美咲、そして黒井との三つ巴の戦いが、因縁の果てに幕を開けようとしていた。




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