第14話 うつけ

 防空壕を後にした田熊と狗飼は、手に入れた帳簿をじっくりと調べるため、ひとまずつくば市内の古いビルへ向かった。彼らが用意したビルの一室は簡素なもので、机の上には一台の留守番電話があり、かつて誰かが使っていたワイシャツが椅子にかけられたまま放置されていた。


 田熊は手にした帳簿を机の上に広げ、狗飼と共にページをめくり始めた。「これを見ろ。こいつらの資金の流れが全部ここに記されている。連中の悪事は、相当根深いぞ」と田熊が眉間にしわを寄せた。


「番頭役が誰なのか突き止められれば、連中の裏の世界を崩せるかもしれないな」と狗飼がつぶやいた。


 ふと、部屋に置かれた留守番電話が再生され始めた。聞こえてきたのは、抑揚のない男性の声だった。


「田熊さん、私はあなたの動きをずっと見ている。帳簿を手に入れて何をしようとしているのか興味があるが、無駄だ。あなたが首を突っ込むのは、おそらく命取りになる」


 狗飼が驚いて田熊を見やった。「誰だ? この声、どこかで聞いたような気がする…」


 田熊も表情を引き締め、留守番電話に近づいた。「さっきの防空壕での連中か…?それとも、別の“うつけ”が俺たちを狙っているのかもしれん」


 その時、つくばの薄暗い街並みを見下ろすように、彼らの背後に影が忍び寄っていた。ビルの廊下を響く微かな足音に気づき、二人は同時に振り返ったが、すでに人影は消えていた。


「田熊さん、どうする?」と狗飼が尋ねると、田熊はワイシャツを手に取り、ゆっくりと袖に腕を通しながら言った。「いいか、狗飼。うつけでもなんでもいい、相手が誰であれ、俺たちはこのビルの頂上まで行ってやるさ。奴らが本当に番頭役を自称するなら、俺たちの覚悟を見せてやる」


 彼らは帳簿をしっかりと抱え、決意を胸にビルの階段を上り始めた。


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