第13話 キマイラ
北茨城の夜は静まり返り、どこか異様な気配が漂っていた。田熊と狗飼は、北茨城の防空壕跡に潜むという噂を追い、車を止めた。ここには裏社会で暗躍する組織が隠している“帳簿”があると言われていた。この帳簿には、多額の金が動く犯罪ネットワークの取引記録が記されており、どうやら牛久周辺の暴力団が関わっているらしい。
「田熊さん、本当にここにあるんでしょうか?」と狗飼が周囲を警戒しながら尋ねた。
「確証はないが、手がかりは確かだ。あの組織が、帳簿をここに隠したって情報だ」と田熊が低い声で答えた。
防空壕に足を踏み入れると、薄暗く湿った空気が漂っていた。少し奥に進むと、廃材やガラクタが散らばり、どこか不気味な静けさが広がっている。そして奥に近づくと、突然、荒々しい足音が響き、二人は警戒を強めた。
「誰か来るぞ…」田熊がつぶやいたその瞬間、暗闇の中から姿を現したのは、大柄な男で、どことなく獣のような雰囲気を漂わせていた。筋肉の固まりのようなその男は、闇の中からふいに現れたかのように立ちはだかり、田熊たちに冷酷な目を向けた。
「お前が…“キマイラ”か?」田熊が問いかけると、男は薄笑いを浮かべ、背後にちらりと隠していたナイフを見せつけた。
「やはり情報通だな、田熊。俺は組織の“キマイラ”と呼ばれている…そう、何度もその名で恐れられてきた」男は薄暗い防空壕の光に凶器をちらつかせ、荒々しく言葉を吐き出した。
田熊と狗飼は緊張感を高め、二人で構えた。「お前がいるということは、この奥に帳簿があるってことだな?」
「そう簡単に渡すわけがないさ…そして、お前たちにはもう娑婆の空気は吸わせない」とキマイラがにやりと笑い、二人に一歩ずつ近づいた。
田熊は一瞬の隙を突き、持っていたランプをキマイラに向けて投げつけ、狗飼がその隙に横へと回り込む。キマイラは反射的にランプをかわしたが、その瞬間、狗飼が背後から襲いかかった。二人がかりでキマイラを押さえつけ、やがてその凶器であるナイフを奪い取った。
「もう終わりだ、キマイラ。これ以上、お前たちのやりたい放題は許さない」と田熊が言い放ち、キマイラを押さえつけたまま手錠をかけた。
キマイラが観念したように深く息をつくと、「帳簿は奥の樽の中だ…だが、渡しても無駄だ。お前たちには全てを知る勇気も覚悟もない…」と呟いた。
田熊と狗飼は慎重に防空壕の奥へと進み、そこに置かれた古びた樽を見つけた。蓋を開けると、中には組織の帳簿が確かに収められていた。これで、彼らが牛久を中心に展開していた裏取引を暴く証拠が揃ったのだ。
二人はその帳簿を手に、次の行動を心に決めて防空壕を後にした。この先、どれほどの危険が待ち受けていようとも、彼らは真実を暴き出す覚悟を胸に秘めていた。
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