第12話 鎌倉
翌日、田熊と狗飼は鎌倉の一角にある古びたラーメン屋にいた。店内は薄暗く、壁に貼られた昭和のポスターが時代を感じさせる。このラーメン屋は、表向きは普通の店だが、裏社会の噂話が飛び交う隠れた情報源だった。目の前には、野村宏伸に似た男が湯気の立つラーメンを運んできた。
「田熊さん、いらっしゃい。最近忙しそうだね」と、男が日本語で親しげに話しかけてきた。この男は島田という名で、昔から田熊の情報提供者だったが、普段はラーメン屋の店主として慎ましく働いている。安月給で生活費をやりくりしながらも、裏の情報に精通する数少ない協力者だった。
田熊はラーメンをすすりながら、島田に向かってさりげなく尋ねた。「例の号機について、何か聞いていないか?」
島田はしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。「ああ、その話か…。実はウニの入荷と一緒に何か巨大な設備が運び込まれているって噂を耳にした。それが“号機”と呼ばれているらしい。場所は茨城の港周辺だ」
「茨城か…」狗飼がつぶやき、考え込むように箸を置いた。
島田はおもむろにウノのカードを取り出し、「最近このカードゲームが流行ってるんだが、なんでもバルブの連中も会議の合間に遊んでるらしい」と言いながら、青と赤のカードをテーブルに並べた。
「そのカード、何か意味があるのか?」と田熊が不思議そうに尋ねた。
島田は静かに頷き、「青と赤、それぞれがウニと号機の暗号らしい。バルブの連中は、仕入れの情報をこうやって隠しているんだ」と明かした。
「まさか、あいつらがこんな手を使ってるとはな」と田熊は呆れた顔をしつつも、手がかりがつかめたことに心の中で安堵していた。
狗飼は笑みを浮かべ、「島田さん、ありがたい情報だ。さて、俺たちもこの“号機”の正体を突き止めにいくか」と言って立ち上がった。
田熊と狗飼は、島田に一礼してラーメン屋を後にした。これから茨城へ向かい、バルブが隠し持つ“号機”の謎を解明しにいく決意を固めたのだった。
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