第10話 牛久の旧館
夕陽が茨城の地平線に沈みかける頃、牛久の静かな住宅街に佇む一軒の旧館の中で、田熊と狗飼は待ち受けていた。イワノフを追う道中で出会った須郷杏子との激しい戦いを終え、今度はこの館の中に潜むとされるもう一人の敵、ヴャチェスラフという男の存在に気を張っていた。
この男、ヴャチェスラフは、ある組織の組長として裏社会で知られた存在で、関係者の証言によれば、その容姿は福山雅治を思わせるほどの整った顔立ちをしているという。だが、その冷たい美貌の裏には数多くの冷酷な犯罪が潜んでいた。西日に照らされる彼の顔には、不気味なほどの静寂と底知れぬ野心が漂っていると噂されていた。
田熊が館の奥へと進むと、暗がりの中に何かがかすかに見えた。壁には、幾つもの古びた下絵が無造作に飾られており、そこには陰鬱な風景や、どこか不穏な人物が描かれていた。その中に、まるで誰かを見下ろすような男の姿があり、その男の特徴が福山雅治に似たヴャチェスラフであることを田熊は直感した。
突然、静寂を破るように低い声が響いた。「ようこそ、田熊刑事。お前たちが俺を追ってここまで来るとは思わなかったよ」
暗がりから現れたのは、噂通りの整った顔立ちをした男、ヴャチェスラフだった。その顔には、かすかに冷たい微笑が浮かんでいるが、どこか疲れた様子も見て取れる。
「ヴャチェスラフ、お前もここで終わりだ」と田熊が冷たく言い放つと、ヴャチェスラフは静かに首を振り、「俺の命を奪うつもりか?残念だが、それは叶わない」と応じた。
「何を言っている?」と狗飼が問いかけると、ヴャチェスラフはその場に座り込み、弱々しい笑みを浮かべながら言葉を続けた。「俺の体はすでに限界だ。病が進行していて、残り少ない命なのさ。お前たちが俺を捕まえようとしなくても、俺は…もうすぐ病死するだろう」
西陽に照らされたヴャチェスラフの顔には、かつての冷酷さとは違う、どこか虚しさが漂っていた。彼は組織の頂点に立ちながらも、逃れられぬ運命に縛られ、徐々に体が蝕まれている自分を悟っていたのだ。
「だが…最後に一つだけ教えてやろう」とヴャチェスラフはかすかに微笑んで続けた。「この絵の中にある男たちは、俺と同じく強き意志を持つ者たちだ。お前たちがどれだけ真実を追おうとも、彼らの意志は消えることはない」
田熊はその言葉に動揺せず、毅然とした表情で「俺たちはどこまででも追い続ける。それが俺のやるべきことだ」と告げた。
その瞬間、ヴャチェスラフは淡い笑みを浮かべて静かに目を閉じた。
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