第2話夏菜の場合。

空いてるやんラッキーなんて、思う自分の浅はかさを。

まさか日曜朝から悔やむなんて。


そこは混み合う車内で空いていてさっさと座らせてもらうとばかりに、確保したのは良かったが。


臭い。

うるさい。

周りの視線が痛い。痛すぎる。


私悪い事してないの。私じゃありません。


私の隣の黒い革ジャンにカーキーの、俺俺言って話している男。貧乏ゆすりなのかリズムを取っているつもりなのか、揺れ動く足、その度ズボン生地シャカシャカ音がしていっそう悪目立ちしている。


イヤホンから漏れ聞こえる音楽と、絶妙に揺れがずれていて、観察しているとリズムも音も動作もタイミング合わないから気持ち悪い。


あの後何度かと電車のドアは開いて閉まりしたが。

私と男の前は明らかに人が避けていて、うっかりすると、男女のカップルにでも見えるのかそんな噂話まで湧き出した。


席、立とうか。

男が先降りないか。

それを考えて居た時。


「なんだよ、おまえ」


怒り出した。


今日のためにおろした靴だから座って痛かったけど。

そのタイミングで離れた。

吊り革を持ち男がいるところを見ないで済む場所まで離れたが、まだ声がする。


「おまえ、男出来たのか?俺がいるのによお!!? ちょっとまて、待てよ」


あんな俺様に、彼女が居たのか。

と私への革ジャン男の彼女なんて、勝手な疑惑は晴れて嬉しいが会話はヒートアップして。何かスコンと叩く音。


確かに私いま、うっせぇ黙れと内心叫んだタイミング。


そちらをみると。

白髪のお爺さんが1人。手刀を作ったまま立っており。そばのお婆さんは誰かと話している。


「駅員を呼んでいるから大人しく待て。皆に迷惑かけてなんたることだ。」


またタイミングよく。

次の駅のへ扉が開くと。

男性駅員が3名。お婆さんを見て。ご協力有難う御座いますと1人が言い2人は男を両脇にして下車。お爺さんお婆さんは夫婦らしく手を繋ぎながら駅員たちに続いて降りて行った。



まるで、アトラクションのように軽やかに。

車内は元通り。


すぐに会話の花が咲き乱れ。


新たに乗って来た女子学生の、制汗スプレーや香水の匂いでタバコ臭は塗り替えられ。


疲れたし、驚いているし、さっきまで苦痛だった男が、あっさり退場した手際もまた夢みたいで。


何よりなかなか珍しい体験に。

もう朝から出来事お腹いっぱいだと思いながら服の匂いを嗅ぐ。


「消臭スプレー買うかあー。里帆かなり嫌いだからなこのタバコの匂い」


やはり男はいたらしい。

嬉しく無い、夢じゃ無い、こと。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る