第2話 運命を変えてしまった出会い
彼女との出会いは、もちろん職場だ。
俺は、大学院卒業後、この中小企業に入社した。
論文が評価されていたから、大企業よりオファーが来ていたが、断って今の会社にいる。
大きな会社で守られているより、自分の実力でのし上がりたかった。
今30歳。入社が遅かったので、やっと部長だ。
俺が務めている会社は、大企業が仕切るプロジェクトに参画して、仕事をする。
現在稼働中のシステム保守を行う仕事もあるのだが、俺には縁がないし、性格上合わない。
なので、仕事を行うのは、客先のシステム室になる。これを現場と呼ぶのが一般的だ。
この現場に、新入社員研修を終えた彼女が配属された。
「今井昴(すばる)と言います。早く仕事に慣れる様に頑張りますので、よろしくお願いします」
まず、女の子なのに男の子みたいな名前だな、と失礼な事を考えてしまったが、
「僕は、坂下。このプロジェクトのマネージャです。これからお互い頑張っていきましょう」
と形式的な挨拶を交わす。
明らかに緊張している今井さんに、
「そんなに力を入れなくても大丈夫だよ。仕事はおいおい覚えていけばいいから」
と、優しく話しかける。
すると、明らかにほっとした、今井さんは
「ありがとうございます」
と、ふんわりした笑顔を見せてくれた。
彼女は、専門学校を卒業後、うちの会社に入社し、今20歳だ。
これが、運命を変えてしまう出会いだとは思いもせず。
そんな事、気付きもせず、平穏な日々を迎える。
今は、上司と部下、それまでだった。
そう、今はそれだけ、、、
マネージャは、基本的に現場の開発作業で手を動かすことはなく、メンバーの管理と顧客との折衝を行う。
でも、俺は手を動かして、ずっと技術者でいたかった。
なので、管理作業と技術者、両方やっている。なので、どの様なシステムを構築しているか、作業員と同じように理解していた。
今日は、彼女の技術指導員、プロジェクトリーダーの近藤が休暇だ。
でも、彼女を放っていく訳にもいかない。
「今井さん。今日は僕が教えるから」
と言って、面倒を見る事にした。
「この仕様をプログラミングしてみよう」
と、彼女に指示を出す。
「わかりました。この仕様について、教えてください」
彼女はかなりしっかり者だ。教えてくれるのが当たり前という奴も少なくない。
「もちろん。じゃ説明を始めよう」
といって、説明を始めた。新入社員に向けて、一番簡単な仕様のプログラミングを行うように指示していた。
「分からない事は、いつでも聞いてもらって構わないから」
と、言って作業を開始するように言う。
彼女は格闘していたが、やっぱり困っている様だ。
「今井さん、どう?」
と、声をかける。
すると彼女は、
「どうしても、ここがわからなくて……聞こうと思っていたのですが、聞く内容の整理がつかなくて申し訳ありません」
と、謝ってきた。なので、俺は、
「謝る必要はないよ。ここの部分だね。ここはちょっと難しいから、もう少し説明を追加するよ」と、画面に手を伸ばそうとする。
すると、彼女の頬に触った。
俺は、男職場と言っても、女性の部下がいない訳ではないので、別になんとも思わず、この様な事が起こっても、
『失礼な事をしてしまったな』と思って、簡単に謝罪する事しかしない。
でも、彼女を見てみると、真っ赤になっている。
俺もつられて赤くなりそうだったが、数式とかどうでもいいことを考えて、表情を変えないよう努力しながら、
「ごめんね、今井さん。気にしないでくれると助かるな」
と、彼女に詫びた。
彼女は、消え入りそうな声で、
「私の方こそ、申し訳ありませんでした」
と、返してくれる。
俺は説明を続けた。
彼女の勤務一日目はこのように過ぎさって行った。
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