50話 私とアキノちゃんさん

「……ふぅ。 アキノちゃんさんって、思ったより普通だったな」


ちゃぷ。


お風呂に入って、ふと思い出す。


――突然に来た、アキノちゃんさんからのDM。


その内容は、10回くらい読み直したわ。


だって、その……話にはよく聞くけど、要はリアルで会ってお話しして、そのまま……ホ、ホテルに行こうって内容だったんだもの。


まさか、あの人が?


私が悪いおじさんに体を触られて、怖くて泣きそうだったときに颯爽と現れて助けてくれた人。


もちろん、あのお兄さんのことも忘れてないけど――1番安心できたのは、アキノちゃんさんっていうかっこ良くてお洒落な女性から助けられたこと。


話し方は男っぽくて、けど、付け爪――付けたり外したりできるネイル――から薄いアイシャドウからアクセまで、なにもかも彼女の雰囲気にばっちりと合っていて。


あの人が有名なインフルエンサーだっていうのも、聞いたらすぐに納得したもの。


私みたいな、真面目だけが取り柄の学生には到底マネできないファッションセンス。


……配信や雑談のアーカイブで聞いてはいたの。


彼女が、その……女の子が好きなんだって。


けど、ちょっとよく分からないこととかも言ってたけどそこまで具体的には話してなかったし、ファンの子たちが喜ぶだけのパフォーマンス。


そう思って――だから、すっごく恥ずかしくなるような質問にも、私なりに調べて答えて。


本当はどういうつもりで私と会おうとしたのか、知りたくて。


――まぁ、さすがに待ち合わせ相手が私って気がついた途端に明らかに帰ろうとしていたのにはちょっと怒ったけど。


……あの人、本当にこうやって、ファンの子をつまみ食いしていたの?


そう思ったら、「破廉恥」とか「不潔」とか「失望」っていう感想じゃなくって――そう。


あれは、「嫉妬」。


「私があの人と知り合う前に、あの人はもう何人もの女の子と親しくなっていた」――それに嫉妬しているって気がついて、恥ずかしくなって。


だから、なるべく普段通りに――紅林さんに対する普段のように話し続けて。


いつの間にかデートしているみたいな……ううん、あのときの私はデートしている気分だった。


楽しくなって。


でも――食べてたら、なんだか銀藤さんのことを――同級生の妹さんのことを、思い出しちゃって。


あの子がもしかしたら――っていうのはみんなで話したけど、まだ確証は無いから別人の、妹さん。


もし仮に、妹さんはお姉さんのことをコンプレックスに感じているんだとしたら。


そう考えたら、なんだか普段考えてることを――気づいたら、全部吐き出しちゃってて。


……お姉さんが、私って気づいてなかった私にそっくりな女の子を食べちゃいたいって理由だけで来てるなら、申し訳ないな。


だから謝ろうと思ったのに、彼女は違った。


私の言うことひとつひとつをちゃんと聞いてくれてて、一緒に考えてくれてて。


――あの人にも、高校生……よね、前に制服を着てたって聞いたし……だから、多くても2歳差。


なのに動画は何十何百万再生、軽い雑談配信でもたくさんの子が駆け付けて、聞けば企業から商品を紹介するのとかもしてて。


どんな話題にもそつなく返事できて、はきはきしゃべって、ちょっと困った人がコメント欄に来ても冷静に対処してて。


あんなにファッションに詳しくて、センスもあって……言ってることが全部本当なら、女の子と何十人と付き合ってきてて。


――そんなアイドルでも、話してたあのときは、ただの女の子だった。


さすがに女の子が好きって公言してるだけあって性格も話し方も――視線とかもちょっとえっちな男の子だったけど、好意がある私にとってはこそばゆい程度で。


ご飯を食べて、2人でお散歩して――ちゃんと駅まで、見送ってくれて。


「食べないんですか?」って聞いたら、「いやいや、妹の同級生食べちゃったら気まずいでしょ……僕も妹も君も、みんなお互いに……」って、笑っちゃうくらいに冷静に言ってて、また笑っちゃって。


紅林さんを悪い男の人から助ける運動神経と度胸。


私を痴漢から助けるときに、それとなく周りの女性に囲んでくれるよう配慮してくれる優しさ。


黒木さんを、突っ込んでくる車の「前」を横切ってまで助けた、思い切り。


「……あんな完璧超人なのに、普段は静かだし優しくて、それで」


――ちょっと、えっち。


「………一応、食べられちゃっても良い準備はしておいたのにな」


私は、お湯に浸かってる体と、身に付けていた服――下着を思い浮かべる。


「相手が男の人じゃないから、そういう心配はないけど……それでも、初めて他人に裸を見せるっていうのに」


思ったより抵抗もなくって。


たぶん、あのまま腕を引かれてホテル街に連れてかれても――抵抗、しなかったんじゃないかな。


それで、たぶん……怖く、無かったんじゃないかな。


だって、アキノちゃんさんだもん。


「……私、悪い子だ」


ちゃぷっ。


お湯に口元までを沈める。


――紅林さんは、もう明らかにぞっこん。


黒木さんも、普段の彼女からは考えられないくらいにアキノちゃんさんのことを想っているのが分かる。


だって2人とも、ドラマチックに助けてもらったんだもんね。


そして――――――――。


「……もし、姉妹じゃ、なかったら」


私は、目を閉じる。


――クラスで、廊下で、体育館で、登下校で、ふと見かける彼女。


猫背で歩幅も狭くって、ふらふら歩いて――けど、同じような黒木さんたちのそばだとちょっとだけ普通な感じになって、まるで彼女たちを守るように動いていて。


紅林さんとか私相手だと、途端に「むぇぇ……」とか――正直、最初聞いたときは笑うのこらえるの、大変だったんだから――不思議な感じに怯えて。


けど、そういうときのメガネと前髪越しの上目遣いが――なぜか、忘れられなくて。


体育で着替えるとき。


あれから、自然に彼女の方を見ていた。


上の着替えで一瞬だけメガネを外した彼女は――やっぱり、美人で。


そんな彼女と、ふと目が合って。


あの子は黒木さんと同じように近視だって分かってるのに、まるで私の目をはっきり見ているように、やっぱり上目遣いをしてきて――――――――


「――――――――あっ」


そこまで考えて――私、理解しちゃった。


私、好きなんだって。


「……えぇぇ……今、分かっちゃうぅ……?」


恥ずかしくってそわそわしちゃって……そして彼女「たち」の周りの人間関係を考えた私は――その落差で、頭を抱えちゃった。



◆◆◆



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