49話 アタシダケノアキノチャン
「あーあ。 冷静に考えたらあたし、ごまかされちゃったぁ」
ぽふんとベッドにダイブしたあたしは、アキノちゃんとあと1歩だった、あの時間を振り返る。
「カラオケ、広い部屋取れたのにもったいなかったなー」
あと、がんばって買って――がんばって穿いてった、アキノちゃんが好きそうな透け透けの下着だったのにな。
正直、頭おかしくなるくらい恥ずかしくって、だからこそスイッチ入って――。
「アキノちゃんなら、絶対食べてくれるって思ったのに」
あたしは、顔と体には自信がある。
コミュ力にも自信ある。
――けど、アキノちゃんには負ける。
「……配信とかで言ってること。 どこからどこまでが本気、なのかな」
初めて配信を見たときは、しゃべりは――うまかったけど、コメントの拾い方とかは初心者丸出しの女の子。
だけど、ファッションのアドバイスとか悩み相談してもらってるうちに、彼女の配信だけが毎日の楽しみになってた。
そんで、女の子が好きってのを公言。
絶妙に特定とかできないごまかし方しながらも、どんな子とどんな風に仲良くなったのかとか言いふらしてて。
「えっちの内容についてはBANが怖いからナシ」って、いつも際どいとこで寸止めで。
――これじゃ、ワンチャンあるんじゃないかってさ。
あたしでも食べてもらえるんじゃないかってさ。
――付き合ってカノジョになれるんじゃないかって、思っちゃうじゃん。
「……けど……えへへへ……」
カラオケでの最後の方の会話を思い出す。
――アキノちゃんは、意外とピュアなのが好き。
だから、段階を踏んでいきたい――つまりはあたしをカノジョにしてくれるって、時間かけてからそういうことしたいって。
今すぐにじゃなくても、段階踏んでカノジョ、なれるんだって。
「……高校、あと3年まるまるあるんだし……えへへ……夏ぐらいかなぁ、秋かなぁ、お泊まり……」
ごろごろごろってベッドを回る。
純愛系の少女漫画なら、やっぱり学校行事に合わせて進むのが定番だもん。
そんなあたしの好みを知ってるアキノちゃんだ、きっとそのときに……!
「……あー、あたしがカノジョかぁ。 JCとJKに人気の新鋭インフルエンサーアキノちゃんのカノジョかぁ」
にやにやが止まんなくって、自分のことなのに正直キモい。
けど、しょうがないよね。
「好き、なんだから」
……でも、やっぱりアキノちゃんはすごいんだ。
だって、もし本当に女の子が大好きで、メン限で言ってたみたいに手当たり次第攻略してはお持ち帰りしてたんだったら、あんな状況、あたしに手ぇ出さないはずないもん。
「……すんすん……うん、匂いだって普通だし、アキノちゃんに相談して買った香水も薄くつけてたし」
アキノちゃんが勧めてくれたギャルな見た目で、アキノちゃんが好きそうなギャルの話し方とかして。
アキノちゃん、あたしのおしりとか結構見てたし、好みじゃない――ってのは、ないはず。
「……あんなに切なそうな顔して、手を伸ばしては止めて。 ……本当に、優しい人なんだから」
両手で体を抱く。
――あの日、あの場所で別に何されても良かったのに。
アキノちゃんだって、きっとそうしたかったのに。
でも、あたしのこと――普通の女の子よりは大事だって思ってくれて、それを先延ばしにしてまで素敵なお付き合いしたいって。
「……あ、アキノちゃん。 最初のころのメン限で、同性婚OKな自治体とか言ってたっけ……」
なんでも、最近は一部の自治体で――つまりは国内でも事実上の結婚みたいな扱いをしてくれるところとかあるんだって。
そういうとこで仕事探すためには……まぁアキノちゃんのことだから、あたしに主婦になってほしいとか言うんならどこへだって着いてくし、そもそも案件とかでそれなりに稼げてきたって言ってたし。
「けど、アキノちゃんの好きなものを買ったげたり、アキノちゃんが働きたくなくなっても養える程度には稼げる仕事……うーん」
ああ、あたしは今、馬鹿になってる。
アキノちゃんとの未来しか考えられなくって、おかしくなってるんだ。
「だって……えへへ。 カノジョだもん」
ぴろぴろってスマホが鳴って心がときめくけど、どうやらアキノちゃんじゃないらしい。
残念だけど、しょうがないよね。
だって
『ごめんなさい。 私、アキノちゃんさんを抱いちゃいました』
「――――――は?」
『わ、わたしもごめんなさいっ。 お姉さんを部屋に連れ込んじゃって』
「――――――――――――――は?」
なんで。
なんでなんでどうしてねえおかしいでしょどうしてあたしがカノジョになったアキノちゃんがあのふたりとそんなことになってるのゆっくり恋愛するんじゃなかったのだから手ぇ出さなかったんじゃないのおかしくないねぇおかしいよねだってそれじゃあのときのアキノちゃんの全部がまるで全部嘘つきであたしのことキライだから拒否ったってことになってねぇ待ってあたしそんなに魅力ない顔だって自信あるのにそれでもダメなの2人よりずっと前からアキノちゃんのこと知ってて応援してきたのになんでこんなときにあの2人に盗られちゃってるのねぇおかしいでしょどうしてねぇアキノちゃんどうしてなんでそれとも何あたしは都合の良い女なのやっぱり配信で言ってたとおりに据え膳とかは遠慮せずに食べちゃうタイプなのならなんであたしのことていうか何白鳥ちゃんアキノちゃんを抱いちゃったってどういうことまさか白鳥ちゃんがリードしてあたしがされたかったみたいなことアキノちゃんにしちゃったのねぇそれでなんでアキノちゃんは拒否らなかったのアキノちゃんならできるでしょだってあんな大男たちを簡単にぶん投げられる体してるのにそれに黒木ちゃんもなんで部屋に連れ込むとか大胆なことしてるのそれでなんでどうしてアキノちゃんはそれにホイホイ行っちゃうの馬鹿なの彼女居るのにそんなことするのそれとも――――――――
「……あたしのことなんて、どうでもいい……から?」
あたしは――――――――
「……ふぅ……ダメ、こういうとこでぶち切れるのはダメ……まずは……」
――スマホを操作して、3人のグループチャットに誘う。
……そう。
あたしも、この子たちと似たようなこと、アキノちゃんにしてるんだ。
だから――うん。
まずは、あたしも謝る。
謝るけど、それでもあの子たちが何をして何をされたのか聞いて。
それで?
「――――――――あはっ♥」
んー、分かんなーい。
分かんないけど?
「もし、アキノちゃんが嘘ついて悪いことしてたらさぁ」
――カノジョとして、相応の罰は与えないとね……?
◆◆◆
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