42話 白鳥さんはシーニュちゃんだった

僕は家に帰ってきた。


無事に帰って来られた。


女の子を食べないで、根性で耐えて。

リアルの平和を脅かさずに。


そうだ、僕はやればできるんだ。

やらないっていうのをやれたんだ。


僕はえらい。


「うへぇ……死ぬかと思ったぁ……」


紅林さんの匂いと香りと柔らかさとあったかさと汗と体重とその他いろいろで。


素敵すぎた分、それを堪能するの極限まで我慢したのがつらかったんだ。


僕は、紅林さんの匂いのつきまくった服を脱ぐ。


ああ、実に素敵な時間だった……あ、あとこの服、洗う前に堪能しよっと。


「ちょっともったいなかったけど、でもなぁ、リアルでの関係者はなぁ」


んー、って伸びをする。


僕の体はえっちなことしたかったのに我慢したから、とっても不満そう。


「リアルは大切だもんね。 日常が平穏じゃないとつらいのは経験済みだもん」


『そうでなくば普通に据え膳とか抜かしていただろうよ』

『元よりそのつもりだったしな、この淫蕩の大馬鹿者は』


スマホを見ると、彼女からの怒濤のDMが。


「なんか変な空気になっちゃってごめん!」だって。


ほんと、良い子だよね。


「ふぅ。 あとはしばらく時間置けば冷静になってくれるはずだし、適当な言い訳して合わないようにすればオッケー」


『本当か?』


「うん、だってあの子、僕が学校でいつも会ってるジャンガリアンハムスターって知らないし、つまりは僕の家とかも分かんないし」


『本当か……?』


「本当だって。 ……ていうか、脳内の僕、そろそろ静かにしようね? 僕、おとなしくしてたよ?」


『大人……しく……?』


「うんうん」


あの子がなんであそこまで暴走したのか、それとも元からかなりの肉食系だったのかは分かんない。


けどもあの子のマインドを「恋愛マンガのヒロイン」を意識するように設定したから、仮にまたデートすることになっても何回かは大丈夫。


「そのあとで……まぁ、どうしても食べたくなったら食べれば良いけど、それよりは他のリスナーの子で発散が良いかなぁ。 もっとカジュアルに僕を求めてる子」


『馬鹿か?』

『結局その思考にたどり着くのか』


もちろん。


だって僕、もう1ヶ月以上おとなしくしてたし?


やっぱむらむらするし?


「ふんふーん。 ……あ、このシーニュって子も良いなぁ」


『嗚呼』

『馬鹿は何を考えようと馬鹿だから馬鹿なのだな』


この子、呼ぼっか?


呼ぼう。


そういうことになった。





「ねぇ銀藤さん。 私、手当たり次第って良くないと思うのよ」

「ひゅっ」


僕の心臓が止まった。


電車でちょっと行ったところの、雰囲気の良い公園。


しばらくシーニュちゃんとDMして、この子の性格を知って。

この子は正攻法で攻めるべきだって思ったから。


……でも思わないじゃん!


まさかシーニュちゃんが白鳥さんだなんて思うわけないじゃん!


想像できるはずないじゃん!


こんなことが連続で起きるとかいう天文学的確率、頭はよぎったけどまさかって思うじゃん!!


『そうか……?』

『主には学習という概念が無いのだな』


心の声うるさい!


「まったく、アキノちゃんさんの妹さんの銀藤さんはあんなに良い子なのに……」


え?


……あ、違うのね、ジャンガリアンハムスターな僕じゃなくって、あくまで君と直接会ったアキノちゃんの方で認識してくれてるのね。


よしよし。


「あ、そっちの銀藤さんね」


「アキノちゃんさんも銀藤さんでしょ? お姉さんだもの」

「そりゃそうだ」


良かった、どうやら僕が僕だってことはバレてない。


僕は安心した。


『違う、そうでは無い』

『この娘相手なら阿呆な真似はしないだろう』


シーニュちゃんと会話してて、心躍ってたんだ。


いわく、母親譲りの明るい髪。


染めてなんかないのに、中学では生徒指導に何回も呼ばれて面倒だったこと。


だから高校は服飾規定がめっちゃ緩いって理由でうちの高校選んだってこと。


だからというわけでもないけど、生徒会とかやってるうちに上級生とか先生、学校の外の人とか大人と話すのにすっかり馴染んだこと。


だから――高校では学級委員長もしていないのに、なぜか生徒会の一員って思われてて、先生からもいろいろ手伝いさせられること。


あと本物の委員長からちくちく言われること。


……そういう不満を聞いて、いい感じに「そうだったんだね」「わかる」「大変だね」「シーニュちゃんはこんなにがんばってるのにね」「君は何も悪くない」「きっと将来のキャリアに役立つよ」って言いくるめて、ようやくに呼び出しに応じてくれたのに。


「……配信で言ってたの、本当なんですね」


普段は「銀藤さん!」ってわんこのように呼んで来る彼女の瞳がジト目になっている。


「ほんっとーに、女の子とふしだらなことしてるんだって」


「あ、あれはね? ……ほら、もののたとえで。 そ、そう! 実は僕、見栄張って」


「私に送ってきたDMの昨日の分、読み上げましょうか?」

「ごめんなさい勘弁してください往来で読むのはマジ勘弁」


やばいよやばいよ……この子、昨日の夜は結構乗り気だったからえっちなの送っちゃったよ……やばいよやばいよ……。


「け、けど、そう言う白――シーニュちゃんも、昨日はあんなに」


「昨日の? ………………………………~~!?」


なんか僕のこと好き好きアピールしてきてたから、軽ーくそういう話題振ったんだよね。


そしたら慣れてないけど興味はあるって感じの会話で大変につやつやしたんだ。


「……あ、あれはっ! ……そうです、アキノちゃんさんを呼び出すために演技したんです!」


けど違うらしい。


ほら、顔を一瞬で真っ赤にして、お耳まで真っ赤にしながら怒ってるもん。


「……なんだぁ、演技だったんだぁ……」


ああ。


僕は悲しい。


こんな清楚系美少女が、実はおだてて盛り上げたらえっちなことに興味ある初心な子なんだって密かにどきどきしてたのに。


「……全部は、嘘じゃないけど……」


なんかぼそっと言ってるけど聞き取れない。


僕のお耳はしょんぼりしているから機能が低下しているんだ。



◆◆◆



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