41話 華麗な話術で脱出

「――ナナちゃん」


「うんっ……!」


仰向けになった僕、馬乗りになっている彼女。


返答次第で――いや、ちからづくで押し返せるけど押し返したくはない素敵すぎる状況で、僕は悩んだ。


悩んで悩んで――あと1ミリのところで踏みとどまった。


僕はえらい。


『偉いか?』『此奴の中ではそうなのでだろうよ』


いやいやえらいでしょ?


「僕は女の子が好きで」

「知ってる」

「今まで」

「たくさんの子食べてきた、悪い女の子なんでしょ。 知ってる」


雑談配信とかでもそうだけど、この子は即レスしてくる。


今とか、もう1秒未満の返信速度で正直怖いんだけど、今はそれが「使える」。


「ナナちゃんはすごく魅力的だ」

「アキノちゃん、いつも配信で言ってるもんね。 女の子は適度にお肉ついてる方が良いって」


「それ言ってからダイエット、ほどほどにしてくれたんだね」

「うん、だってその方が好きだって言ってたから」


よしよし、この子の健康的なふとももは僕が育てたって言えるね。


『馬鹿か?』『馬鹿だな』


いやいや、ダイエットしすぎるとお胸までしぼんじゃうんだよ?


それは全人類の損失だもん。


「だからあたし、顔もまあそこそこ以上ではあるし? 体もアキノちゃん好みだし」

「うん、えっちだね」


「……っ、だから、今から好きなだけ」


「でも、だから今はダメなんだ」

「うん――――――――なんで」


ひぇっ。


今は無くなっている僕の大切な黄金に輝いていたはずの玉が、ひゅんってする。


「どうして? アキノちゃんの言ってた『えっちな関係になれる後腐れのない都合の良い女』だよ?」


「だから、嫌なんだ」


「え、だから。 ………………………………?」


こてん。


首をかしげながら、彼女が思考を停止する。


頭の回転の良い子との会話では、こういう矛盾をいきなり投げつけるとこうなるんだ。


「……ナナちゃんは、すごく魅力的だよ」


「………………………………え」


光を映していなかった瞳に、初めて困惑のハイライトが浮き上がる。


よし、今だ、今たたみかけるんだ。


「まず、顔が良い」


「……サイテー」

『最低だな』『最低である』

「顔は大切だからね」


「それで、体つきも大変良い」


「んっ……♥」

『下郎だな』『下郎である』


ちょっと内なる僕の良心、静かにしよっか?


「で、そんなことはね。 ――大切な人にするなら、関係ない」


「……?」


僕がメン限でついうっかり言っちゃったゲスな発言を、全否定。


彼女はまた、首をかしげる。


「君はいつも明るくてみんなを盛り上げて――人間関係ってめんどくさいし嫌なところもいっぱい見えるはずなのに、そこを飲み込んでみんなをまとめる。 君にはそんな力がある」


「……そんなの、ただ見た目とコミュ力で……あたしの力じゃ」


「それも込みで、君はみんなのお世話をしている。 嫌だったらしなくて良いんだし、好き勝手やりたいなら君たちより下の……カーストの女子たちも、男子の大半も、やろうと思えば言いなり。 でも、しない」


うん、この子もまた良い子だ。


普通に明るくて――けれども、ジャンガリアンハムスターな僕に対しても、多少無愛想で勝手に机に座ったりしてそれがまた最高っていうか違う違う暗い感情は、少なくとも表には出さない。


うちのクラスは――まだ新学期も良いところだけど、最近すっごく仲良くなってるけど、それでもその前から雰囲気は良かった。


「そういうのに、あんま興味」


「無いってところが、良い子なんだ。 思わないってところが、君の良いところなんだ。 君はギャルに憧れてギャルになっただけの、良いギャルなんだよ」


もしかしたら、なぜか僕の周りで集まってたから仲良くなったけど、そうならなかったらクラスの上位層としか接しなかったかもしれない。


それでもきっと、下層の僕なんかがおろおろして困ってたら、無愛想だったとしても「どしたの?」くらいは聞いてくれる気がする。


で、僕とかがそれでびびったら、困った顔して「怒ってるわけじゃなくって……」とかきっと言ってくれて、ちょっと距離取ってくれながらまた聞いてくれるんだ。


うん、きっと聞いてくれる。


僕はどんな女の子でも堕とすのが楽しいしその過程が最高に好きだし、そのあとのご褒美もむしゃぶりつくしたいけども、それはそれとして――。


「体だけじゃなくて、心も。 その子自身も好きになるのは、やっぱり君の内面そのものだよ」


「――――――――っ……」


汗ばんで息の荒かった彼女は――光を取り戻した彼女の顔は真っ赤になって、きょとんとした感じになっている。


「僕は、そういう子とは――うん。 普通に恋人になるみたいに、1歩ずつが良いかな」

「……うん」


「ナナちゃん、正統派の少女漫画好きだって、コメントで言ってくれたよね」

「……うん」


「僕も、そうだって言ったよね」

「……うん」


大きなテレビ画面からの声が、聞こえてくる。


これまでこの子の雰囲気で消し飛んでたそれが、ようやくに……冷たい冷房の風とともに、吹きかけてくる。


「……まだまともなデートも……カラオケもちょっとしかしてないのに、いきなりこういうことするのはさ」


さあ、これでとどめだ。


「もったいない――よね?」


「……うん。 いきなり……ごめんね」


……すっ。


彼女が、そっと腰を浮かせて下がる。


彼女と僕の、密着して汗がたらたら流れてたふともも同士が、氷に当てられたみたいにひやっとする。


「………………………………」

「………………………………」


カウチの上で、僕にまたがってたときみたいに女の子座りをして、ちらちら僕を見てくる彼女。


「……じゃ、ジュース飲んだら新曲、披露しちゃおっかな」


「……うんっ!」


そう返事した彼女の顔は――普段通りとまではいかないけど、とってもまぶしかった。



◆◆◆



「明乃ちゃんがこれから何やらかすのか気になる」「おもしろい」「TS百合はやっぱり最高」「続きが読みたい」「応援したい」と思ってくださった方は、ぜひ最下部↓の♥や応援コメントを&まだの方は目次から★★★評価とフォローをお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る