13話 紅林さん……なんか近くない?

「ふぅ」


今度は普通の体育の授業。


そんな中、僕はちょっと離れたところで休憩中。


今って良いよね。

体育とかでムリしなくて良いって方針になってて。


覚えてはいないけども前世ではこんなの許されなかったっぽいし、なんだかんだ生まれ変わって育った期間でそれなりに世界は変わっているらしい。


まぁ前世で高校卒業してから死ぬまで+今世の高校入学までだからね。


……前世で何歳だったかとかは考えないようにしとこ。

記憶ないんだから実質ぴちぴちのJK1年生で良いもんね。


「はーい、次ー」


そんな先生の声が響く。


今日は体力測定。


みんな順番に並んでいろんな種目をひとつずつやらされている。

学生って大変だね。


これが大学生になった瞬間に強制力はなくなるんだけども、逆を言えば高校を卒業するまでは全員に共通の強制で集団行動をしなきゃいけないんだから。


やってるあいだはめんどくさいけど、終わっちゃうとそういうのが懐かしくなる不思議なマジックだ。


「あ、黒木さん。 がんばえー」


「ちょっと頭が……」って先生に言って離れた木陰で休んでる僕は、先生から名前を呼ばれたらしくハムハムしている彼女に、ぽそぽそとやる気のない応援をする。


あ、走り出した。


ぽてぽて走ってる。


でも分かるよ、あれで全力で一生懸命なんだって。


運動が苦手だと体の動かし方からよく分からないし、普段から動かしてないからこういうとき大変だよね。


しかも急に全力出したからおなかとか頭痛くなるんだよね。


分かる、分かるよ。


何かおかしいとは理解してて恥ずかしくなるんだけども、それを直す方法なんて知らないし、どうせ年に1回2回だからってすぐ忘れちゃうアレだ。


……体の動かし方なんて小学生時代に培うものだから、高校生にもなっちゃうとどうあがいても直せないんだけどね。


つまり黒木さんは一生のハムハム。


けど安心して、男はそういうの大好きだから。


まぁ女子の中にも似たようなどんくさいゴールデンハムスターが好きな子とか居るし、結局は好みの問題なんだ。


運動オンチってのも立派な属性。


もっと誇っていこう。


「……ふぃー、本気出すと疲れるわー」


――黒木さんを応援してて油断したのか。


そんな声が横の上の方から降ってきて、顔を上げると――ギャルが居た。


……やっば、気づかなかった……気づいてたら元気になったフリしてさっさと逃げたのに。


「隣、良ーい?」


「………………………………はひ」


「や、イヤなら他行くよ?」

「はひぃ……」


とりあえずでイエスともノーとも言わない気遣いを。


……けどなんで君がこっち来るのさ……君はギャルたちとかモテグループの主犯格もとい最上位でしょ……?


なんでこんなジャンガリアンハムスターのとこ来るの??


「……これでもダメかぁ……まぁいいや。 ヤだったら離れてね、銀藤ちゃん」


「ちゃ、ちゃん……?」


とさっとおしりを下ろした彼女からふわりと漂ってくるいい香り。


「うんっ。 銀藤さんとか黒木さんと仲良くするにはどうすればいいのかなーって思って、とりまであだ名つけてみた。 呼び捨てとか銀藤っちとかはまだ早いでしょ?」


早いとかよく分かんないけど待って待って。


なんでそんなにぐいぐい来るの?


君と僕は接点ないでしょ??


この前の?


あれは事故だって何回も言ったじゃん。

先生の前でも本当に事故なんですって何回も説明したげたじゃん。


なんで?


「……あ、銀藤ちゃんといつも居る子たち」

「は、はひ」


ハムスターたちは群れる習性がある。

よって、黒木さんが走ったってことは当然彼女たちになる。


「銀藤ちゃんもさっき走ってたよね」

「は、はひ」


「こういうの、走り慣れてないと大変だよね」

「は、はひ」


「あたしもさー、こういうのは好きじゃなくてさー。 さっきも全力なんか出してないのよー。 あんまり良い数値出しちゃってもそれネタにされちゃうしさー」


「は、はひ」


猫な彼女なりの気遣いなのか、僕の方は見ずに話し続ける紅林さん。


うん、えっと、うん……こういう距離感なら黒木さんとかも大丈夫だとは思うけど。

ああいや、あの子はダメか……人見知り激しいし、ギャルは怖いから。


「銀藤ちゃんもおんなじ?」

「は……い、いいえ……」


「握力とかも?」

「ち、力、ないし……」


「ふーん」


ちらりと眺める彼女の横顔は、やっぱり美人さん。


髪型とかもSNSとかでよく見る最新式のだし、地毛の赤いウェーブを活かしきったお洒落をしている。


「――でも銀藤ちゃん」


くるり。


ぱちり。


彼女の鋭い瞳が、僕を見る。


「ほんとはもっと力、あるでしょ?」


「へ……い、いぇ……」


やだなぁ、なんてこと言うんですかギャル様、肩でもお揉みしましょうか着替えのときに見せてくれた大変素晴らしいブラジャーとか結構重そうだったし、女子同士の暗黙のいろいろで肩も凝ってるでしょうなんなら重そうなお胸を支える係になりましょうかへへへ。


……なんかセクハラ親父っぽいけど、女子同士でいちゃつくとこうなるんだよなぁ……なんでだろ……。


「ごめんね? この前両手使えないからって着替え手伝ったとき、銀藤ちゃんの腕とか触っちゃったんだよね」


そうだっけ?


3方面から女の子たちが体をまさぐってくれる嬉しさでぜんっぜん分からなかったんだけど?


「銀藤ちゃんってさ、体、鍛えてるでしょ」

「へぇぇぇ……」


「ウソついてるとか、そういうことじゃないの。 ただ、気になって」

「へぇぇぇ……」


え、マジ?


そんなことまで分かるのこの子?

そんなの意識して触ったり揉んだりしないと分からないんじゃ?


「だからてっきり、あたしみたいに授業かったるいから適度にサボってるのか思ってさ。 あ、あと、脚とか速かったら人が足りない体育会系から誘われたりするからなのかなーって。 運動部ってコミュニケーション圧すごいからヤなのかなーって」


「へぇぇぇ……」


あ、その手があったか。


なんてもう遅いけども……おかしいなぁ、ジャンガリアンハムスターたちと似たような感じの数字出してたのに。


「………………………………」

「………………………………」


じーっ。


彼女の燃える瞳が――僕を見てくる。


実は遠くの黒木さんたちもシルエットでしか見えてないデカ眼鏡を貫通してくる眼力。


え?


どうしよ……これ。


「……ま、いいや」


興味をなくしたのか、ふっと彼女は立ち上がり、ぱんぱんと形の良いおしりを叩く。


「気になっただけだからさ。 ほんと、それだけだから」

「へぇぇぇ……」


「くすっ。 その返事、ヘンなの」


ちょっとだけ笑った彼女が、みんなの元へ歩いて行く。


「…………………………ぷはぁ」


……いやぁ、まさかあんなこと言われるなんて思ってもなかったからびっくりしたー。


けど確かにそうだよなぁ。


女の子の体って普通に鍛えてもぷにぷにして大変よろしいけども、でもやっぱり黒木さんたちみたいなガチインドアと、放課後だけだけど運動したり踊ったりしてる僕とでは筋力とか違うよね。


中学までは体も鍛えてたし。


確かに運動部してたわ……そこまで見抜かれるとは。


「……今どきのギャルは、他の女子の筋肉まで気になるのかぁ」


それとももしかして、彼女は筋肉フェチだったりとか。


うん、きっとそうだ。


彼氏さんなんかよりどりみどりだろうし、体育とかで筋肉を見定めたりして素晴らしい筋肉の持ち主とかを選ぶんだろう。


どんなタイプの筋肉が好きか分からないけど、きっとこだわりがあるんだ。


人の性癖には口出ししないけど、意外だったなぁ……そっか、まさかギャルが。


いや、ギャルって本能に忠実だってのが僕の知識だし、他の子もそうなのかもね。


うん……夏場もなるべく長袖で居よっと……この子みたいな筋肉第一な子に目ぇ付けられると困るから。



◆◆◆



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