10話 ご褒美は美少女3人から脱ぎ脱ぎさせられるやつ

「ぎん゛どう゛ざん゛、ごべん゛ね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛」


「だ、大丈夫……軽いねんざみたいだから……」


体育館から保健室、保健室から教室にと、僕たちの後ろから泣きながら着いてきてた黒木さんの鳴き声が響き渡る。


ああ、君は本当にかわいいジャンガリアンハムスターだね。


でも君は一応女の子だし、中身は美少女なんだからティッシュくらい持ち歩こうね……や、ジャージには入れてかないか、普通……。


「ずび……」


「ほら、黒木さん。 これを使って」

「うぅ……ち゛ーんっ」


普通じゃない白鳥さんは普通にジャージからティッシュ出してる。


さすが実質委員長。


「ごめん! ほんっーとーにごめん!!」


「い、いいですぅ……痛みも、今はほとんど……」


謝り通しの紅林さんが、何度目かに頭を下げてくる。


良い子だよなぁ……痛がってるけど本当はぜんっぜん痛くないのに。

しいていえばボールが手のひらに吸い付いた衝撃くらいなのにね。


でも確かに、間違ってジャンガリアンハムスターにボール当てちゃったて思うと罪悪感すごそうだよね。


ぷちっと潰れそうだし。


「でもすごいわね、銀藤さんって」

「ねー。 あんなに速く動けるんだ」


あ。


そっちは思い出さないでほしいなぁ。


「た、たまたま……前が空いてて、見てないで歩いてたら……」


スイッチは完全にジャンガリアンハムスター。


僕はジャンガリアンハムスターなんだ。


「そ、そういうこと……ずび……あるよねぇ……」


「それ! あるある! すごくある……ですぅ……!」


ジャンガリアンハムスター同士の共鳴で乗り切ろう。


「偶然だとしても、そのおかげで黒木さんが大変な目に遭わずに済んだの。 あなたたちの身長差を考えると、多分あのボール、あのままだと黒木さんの胸どころか顔に直撃してただろうし……」


「あれはほんっとキモ冷えたわー……マジ心臓に悪かったー」


「ずび……ぎ、銀藤さん……!」


あー……多分、高校デビューしてから初めて明確に視線集めてるわ。


計3人のだけど、そのうち2人の密度が違う。


自己紹介のときも黒木さんの真似してたから注目されてなかったし……それ以外はハムハムして紛れてたし……。


「ずび……あ、ティッシュ……」

「通学中に配ってたのだからあげるわ。 いくつもあるもの」


さらりと笑顔な白鳥さん。


これこそが生まれつき容姿と性格に恵まれた女の子か。


「けど、銀藤さん……両手が包帯と湿布よね」

「あー」


「わ、わたしがっ!!」


廊下に突如として響き渡る黒木さんの声。


「う、うん……何……?」


どうどう、落ち着こう。


ハムスターの種族はテンションの上げ下げと声量の上げ下げが苦手だからね。


「あ、の……の、ノート、とか……」

「うん、ありがと」


そうだよね、複雑骨折したような痛がり方したもんね、その次の授業で平然とノート取ってたらそりゃ不自然だよね。


ナイスアシスト、黒木さん。


「そうね、私、先に行って先生に伝えておくわ。 手が治るまではノート、難しいものね」


「あ、あたしにも責任あるし、できないことあったら何か言ってよ? てか言ってくれないと罪悪感でやばいの!」


「は、はいぃ……よ、よろしくぅ……」


僕のジャンガリアンハムスターとしての普通の反応に満足したらしい2人。


……もしかして、意外と危なかった?


いやいや、たとえ僕が意外とすばしこいハムスターだったとしても、自己紹介からの印象はそうそう変わらないはずだ。


「………………………………」


ハムスターたちの中にも小中と運動してた子も居るし、別にバレたとしても問題ないはずだね。


それに、実はそんなにハムハムしてなかったとしても特に問題はないはずだ。


なぁんだ、大丈夫だったんだ。


よかった、じゃあさっさと着替えて


「あ、ぎ、銀藤さん……着替え……」

「ジャージの上着とか、あたしたちで手伝うよ!」


え?


現役JKたちにお着替えを?


………………………………。


「お、お願いしますぅ……」


そりゃあお願いするでしょ。


誰だってするでしょ。


男ならするでしょ。


役得だもんね。





「っていうことがあったんですよ」

「明乃ちゃん、優しいのねぇ」


手首にはっつけられた湿布をぺりぺり剥がしながら店長さんに報告。


「あー、かゆー」

「あらあら、かぶれちゃって」


「湿布とかかぶれやすいんですよこの体ー」


女の子だからかなぁ。

肌が薄いんだよなぁ。


で、この話。


学校の知り合いはみんな大げさに……主に紅林さんが言いふらして知ってるし、今世の両親は帰りが遅いから早くて週末にしか話せないし、だから今こういうのを話せるのはこの人だけだし?


ああ、あとはあの親父さんか。


あの細長い包丁持ってるおじさん。

あの人のとこ行くとこっそりお酒もらえるから大好き。


「……というか、そこまで徹底的に隠すつもりなのねぇ……」

「まー、ほら? やぼったい地味女子高生ってのも、属性としては好きですし?」


地味っ子って良いよね。


しかも眼鏡属性……や、伊達だからとっさのときに「メガネメガネ」ってできないし、眼鏡好きには怒られちゃうか。


「明乃ちゃんって、本当に女の子好きよねぇ……」

「ストライクゾーンが広いって言ってくださいね」


男だからね。


基本雑食なんだ。


こういう話はゴールデンハムスターたちと合うんだけども……こういう話で盛り上がってちょっとするとすーぐ告白とかしてくるからなぁ……今世の僕は女だからなぁ……。


「………………………………」


「?」


ふと見上げると、じーっと僕の顔を見ていたらしい店長さん。


「……明乃ちゃん……中学で修羅場になったって言ってたけど……その理由って……?」


「いえ、何か知らないんですけどいつの間にかハイライトオフな子に囲まれてて」


あれは怖かったなー。


すっごく楽しかったはずなのに、3年になってみんな真っ暗なおめめに変貌しててなー。


だからこそ高校では徹底してジャンガリアンハムスターに擬態してるんだ。


あれが僕のせいなら、こうすれば大丈夫なはずだからね。


「……いつもスマホ、持ち歩きなさいね」

「え? あ、はい」


「あと、すぐに通報できるようにしておきなさいね」

「え? まぁ女の子ですし、そうしてはいますけど」


「……刃物には気をつけなさいね」

「? はい、気をつけます……?」


なんだか真剣そうな目をしている彼女――もとい彼。


「……明乃ちゃんは良い子なんだけど……肝心なところが抜けているみたいねぇ……」


「?」


はぁ、と、何かをつぶやきながらため息をひとつ。


どうしたのかな?


何人ものお客さんに惚れられて切った張ったの修羅場にでもなったのかな?


もうちょっと無自覚で男を惹きつける見た目と話し方っての、意識した方が良いと思うよ?



◆◆◆



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