8話 速攻バラされたけど問題なし
「……ってなことがあってさー!!」
「奈々、また盛ってるー」
「そんな危ない目に遭って颯爽と推しに助けてもらえるとかさぁ」
「ないない、絶対ない」
「てか昨日のHRでやばいって話あったばっかりよね?」
翌日。
紅林さんは盛大にバラしていた。
大声で、スマホいじりながら――多分他のクラスの子とかへも。
まぁ、そうだと思った。
良くも悪くも裏とかなさそうだもんなぁ、この子。
「アキノちゃん、このへんに住んでるのかなぁ……」
「え、マジなのその反応」
「てか奈々、それ個人情報ー」
「ムリよ、奈々ちゃんには」
「奈々だもんねぇ」
この話が広まらないのは無理らしい。
……まぁ、夜の格好は基本、店長さんとこまでは封印してて、店長さんとこのメイク室で撮影とかしてあの周辺限定だけども……しばらくは隠れとこ。
「ギャルって怖い……」
「怖いね……」
「人混み怖い……」
「怖い……」
「この学校は不良とか居ないけど、やっぱり怖い……」
「声大きい人、怖いね……」
「銀藤さん、昨日、怒られなくて良かったね……」
そんな紅林さんたちギャル集団を、勝手に恐れおののいているのはハムスターたち。
ああ、愛しきハムスターたち。
生まれも育ちも学力も家庭環境もそんなに変わらないはずなのに、この子たちはこんなにもあの子たちと違うんだ。
性格と気の持ちようだけでこの差だ。
だから僕はここが好き。
僕のオリジナルの性格と同じだから。
前世の知識なければ同じ反応してたから。
「そうだね、機嫌良いときで良かったよ」
だからこうして隅っこに移動して――なぜかまた彼女のふとももとおしりに敷かれている僕の机から、距離取っているんだ。
良いなぁ、机さん……僕、次の人生は机で良いや……いや、イスの方が良いか?
「オタクに優しいギャルとかあり得ないもんな……」
「フィクションはフィクションだから楽しいんだ……」
「で、でででも、スカートが短くて」
「おい、銀藤さんに聞こえるぞ」
ゴールデンハムスターたちは、僕の中身と似た反応。
全部聞こえてるけど、僕も同じ気持ちだから安心してね。
「でもさー、そんな事件あったとか、どこ見てもニュースになってなかったし」
「奈々ちゃん、盛るのは良いけどウソはダメだってー」
「まぁアキノちゃんとすれ違ったくらいは本当だろうけどさぁ」
「ウソじゃないし!! ほんとだし!! あ、昨日履いてたハイヒール、片方折れてるの持ってくれば!」
「いや、奈々ってばドジっ子だし……」
「安いハイヒールは元から折れやすいし」
「だから止めなって言ったのに……」
「奈々はいきなり走ったりするんだから普通の靴の方が良いよ?」
彼女たちのボリューム最大な会話は筒抜け。
多分廊下まで響いてる。
けども、取り巻きさんたちのおかげで、どうやら昨日の話も「推しのアキノちゃんが好き過ぎて盛りすぎて引っ込みつかなくなってる」っていう扱いに。
「だからホントだって、………………………………」
うんうん、普段の彼女の性格のおかげだ。
よしよし、これでOK万事OK。
高校生活は始まったばかりなんだ、平穏無事がいちばん。
ハムスター属の僕と猫なギャルのあの子とは、住む世界が違うもん。
……あっちに合わせると、絶対毎日ヘトヘトになる生活だろうし……。
「………………………………」
「? どしたの奈々」
「あの子たちがどうかした?」
「……ううん」
ハムスターの群れが揃って見つめていたからか、こちらをぼーっと見てきていた彼女から目を逸らし――僕は、いつものハムハムとした会話に紛れていった。
◇
「はーい! 今日は自習なので、投票の結果、女子は体育館でドッヂボールしまーす!!」
そんな陽の笑顔で楽しそうに宣言するのは、実は委員長とかでも何でもないのに実質的に委員長な白鳥さん。
ちなみに本物の委員長さんは教卓の横で固まってる。
かわいそうだけどしょうがない、カリスマだもん。
「やりぃ!」
「数学の時間遊んでられるなんてサイコー!」
そんな彼女がクラスの女子――主にカースト上位から中位の女子たちの意見と同意と同調と協調、その他「女子」っていう生き物の無言コミュニケーションによる結論を出すと、紅林さんたちギャルグループはものすごい笑顔だ。
楽しそうで良いね。
「数学の方が良かったのに……」
「寝てたい……」
「保健室行こうかなぁ……」
「ドッヂボール……痛いのやだなぁ……」
一方でジャンガリアンハムスターたちはげんなりしている。
そりゃそうだ、完全インドアだもんね、君たちの大半。
気持ちは分かる。
僕だって自習の時間は読書するか寝るかしてたいもん。
「そもそも着替えるの疲れるし……」
「めんどい……」
「昨日、推しの配信が夜中までだったから……」
「昨日1クール一気見したから……」
まぁ学校でダウナーになってる原因の半分くらいは君たちのせいなんだけどね。
そうなる気持ちはよく分かるけども。
正直、僕も昨日ので疲れてるからなぁ……。
「あー、早く走りたーい」
「ジャージってダサいよねー」
紅林さんがしゅるしゅると脱ぎ始めている。
この空間に男子が居なくなったと思い込んでるから、遠慮無しにスカート下ろしてぱんつ見えてる。
黒。
よし、今日もがんばろっと。
ぎゅっ。
気のせいだとは思うけども、僕が紅林さんの黒ぱんつに興味を示していたら服の裾をつまんできているジャンガリアンハムスター黒木さん。
「ぎ、銀藤さん……」
「あ、うん。 先生からの唐突な『適当に2人組作ってー』はないけど、あったら一緒だね」
「黒木さん、ずるい……」
「いつも銀藤さんと……」
「いいなぁ……」
他のジャンガリアンハムスターたちがぶつぶつ言ってるけども、こういうときばかりはおすまし顔な黒木さん。
うん、分かる。
分かるよ。
初日で会話できた相手は譲りたくないよね。
適当に座った席同士ってことで、最初に声かけたのが君だったもんね。
そんな相手が他の子と仲良くなって自分が置いてきぼりになったら軽いNTR味わうもんね。
うん、分かる分かる。
……分かるからメガネのフレームの上から上目遣いで見てこないで?
君もぼさぼさの前髪とビン底&常時曇りメガネでただのジャンガリアンハムスターになってるけども、その下はかなりかわいい系だからね?
そんな目で見つめられたら……家に連れ込んで着飾りたくなっちゃうからさ。
◆◆◆
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