4話 ギャルを攻略するとは想像してない僕の放課後

「アキノちゃーん♥ 前からだいしゅきー♥」


「う、うん……ありがとう……」


僕の前で、紅林さんが聞いたことない声を発して聞いたことない顔してる。


距離が近い。


めっちゃ近い。

良い匂いする。


「アキノちゃんのこと、激推しすぎて!! ほらこれ!!」


「う、うん……」


ぐいぐいと柔らかいのを押し当ててきながら見せてくる彼女のスマホには、夜の僕の姿。


距離感ゼロのギャルが僕を襲っている。


――どうしてこうなった?





「地味系女子高生な明乃ちゃんもカワイイけどぉ、やっぱりオシャレした明乃ちゃんの方がステキよぉー♥」


「うん、ありがと、店長さん」


心安まる高校生活も、地味で静かなのは学校の中だけ。


学校っていう、人間関係が複雑骨折から大爆発までするような場所ではジャンガリアンハムスターになってる僕も、放課後は全力で楽しむ。


「やっぱり明乃ちゃんは派手系が似合うわよねぇ……うらやましいわぁ」

「店長さんだって、今日も落ち着いたメイクが素敵ですよ」


学校から数駅。


放課後になると、ハムスターたちは一目散に学校から逃げ出して巣穴を目指す習性がある。


中には好奇心を発揮して部活とかにはぐれる個体も居るけども、それなりの数がいっせいにおのおのの巣穴を目指す。


もちろん僕もそれに習って一緒に帰り――途中でさりげなく降りて、もはや常連となった、とある繁華街のとあるお店へin。


周囲に同類とかわんことかにゃんことか飼い主とかが居なくなって――僕はようやく、人間に戻ることができる。


「……ほんと、明乃ちゃんは私たちのこと、分かってくれるわよねぇ。 こういうご時世でも、こういうのはやっぱり気持ち悪いって思う子も多いのに」


「前にも言ったと思いますけど、私――いや、僕も、同姓が好きですから」


「合わせるためだけに言ってくれるのも普通に嬉しいけど、やっぱり同じ側の子の方が良いわよねぇ」


「まぁ、普通は理解できない感覚ですからね」


そんなぶっちゃけたことを話したお相手。


店長さん。


名前は知らないっていうか忘れた。


身長は180cmくらいですらっとした体つき。

顔も小さいし脚も長くって、お胸はないけど妙齢の女性なファッションがぴったり。


20代後半から30代――雰囲気によってはそれ以上にも見えて、おじさんたちに大人気の年齢不詳の美女。


――だが、男だ。


ただし、僕からぶっちゃけたように、彼はその逆。


つまり、僕が体が女だけど心は男なように、彼は――体は男でも、心は女。


そして、「そういう系統」のお酒のお店をやっている。


まぁ、そういうこと。


いかがわしい系統じゃないらしいし、ここに来るお客にとって「僕の見た目」は性癖からは大きく外れてるか、両方いけたとしても今はそういう気分じゃない。


つまり完全に無害で居心地が良いんだ。


で、今の僕はそのバックヤード、もといメイク室へお邪魔させてもらっていて。


「うらやましいわねぇ。 明乃ちゃんはどっちの見た目でも満足できるだなんて」


「僕からすれば、店長さんみたいにどこからどう見てもスレンダー系の女性で、声まで完璧な方がすごいんですけどね」


「それにしても……いつものことながら、どうやったら今の明乃ちゃんから、こういう場所にいなさそうなメガネっ娘な見た目になれるのかしらぁ……? いえ、あれもかわいいけど」


「容姿への興味を意図的にゼロにすればなれますよ」


擬態だけどね。


正体を明かされるまでは、本気で女性だと思っていた店長さん。

まぁ「工事」こそしていないもののホルモンやってるらしいし。


ホルモンってすごいね。


僕は脂身とか苦手だから遠慮するけども。

そのホルモンじゃないけどね。


そんな「妙齢の女性」の隣、かなり派手めなメイクを決めた女の子。


髪型は今の最先端をアレンジしたもの――普段は肩を覆う程度の長さの髪の毛は、色つきのエクステで伸ばして派手派手に。


目元も口元も、およそ学校にして行ったら1発で生徒指導室行きな感じ、かつ男の僕の感性からして派手すぎないぎりぎりに。


服は、店長お勧めの、最近流行りだしてるっていう露出の多めなシャツにミニスカと、これまたこのまま学校行ったら大騒ぎになること間違いなし。


お化粧も、今どきの高校生――の派手目からちょい抑えめに。


一応今の流行のだと思う。

多分。


「うん、これは『踊ってみた』上げないと損だわ」


この見た目だって、来年には少しだけど変わっちゃう。


それが成長期――特に女って生き物だ。

男のときには感じなかっただろう焦燥感で自撮りが捗るんだ。


「明乃ちゃん、超のつく美少女だものねぇ」

「店長だって絶世の美女ですよ?」


「……さっきも言ったけど……明乃ちゃん……」


そんな彼女は、僕のファッションを「女の目線」で頭からつま先まで往復し。


「その美貌で、学校では完全に地味系に擬態して、あっという間に夜の格好に。 ……明乃ちゃん、貴女本当に高校生……? 普通に大人とも話せてるし……」


「自己顕示欲とかがそれなり止まりだからですよ。 しいて言えば……ナルシスト?なので、どう思われるとか気にしないからです」


肉体は女の子、精神は前世からの男。


まぁ理解できる存在は居ないと思う。


「なるほどねぇ」

「自分にしか興味ないんですよ」


店長さんとは本音をストレートに本気で投げつけ合う関係。


だから適当に、ほぼ毎日のように繰り返されるお互いへの褒めっていう暴力を適当に楽しみつつ、「夜の僕」用のスマホを手にする。


「というか『夜の格好』とか言わないでください、いかがわしいことしてないんですから」


「明乃ちゃんってマジメよねぇ」

「我が身が最も大切なだけです」


「……家族にもバレていないの、その徹底主義のおかげよねぇ。動画も配信もしてるオシャレアカウントすら、ここだけで、って」

「両親が共働きで遅いからってのもありますけどね」


別に悪いことしてるわけでもないし、バレたとしてもそこまで怒られはしないだろう。


……けど、こういうスタイルのせいで中学でやらかして引っ越しまでしてもらったんだ、「高校では落ち着いたんだね」って思っていてほしいっていう子供心。


本当は何歳だか分かんないけどね、精神的には。


だから、家では徹底的に隠している。

たぶんバレてない自信はある。


多分ね。


――ぷるるるる、と電話が鳴る。


「……ええ、ええ……分かったわ」


お店の電話に出た店長さんが、僕をちらりと見る。


こくこくとうなずく。


「……ということで『おつかい』、お願いできるかしら?」


「メイク道具から衣装、配信機材から環境まで厚意で揃えてもらって使わせてもらってるんです。 良いですよ、どこです?」



◆◆◆



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