第2話 安藤家現場下見

大きな木造2階建ての家だった。

一階の坪数でいうと60坪はあるだろうか。


おそらくリフォーム時に書かれた改修前、改修後と2枚に分けられた工務店による図面の記載によると2000年にリフォームされたようだった。


トイレはウォシュレットの載った洋式便器だし、システムキッチンにはIH調理器。ユニットバスには浴室乾燥機が吊られている。


それらの機器はたぶん10年以内に、経年劣化に伴って新しいものに更新されているようではあった。


元々和室だった1階の階段脇の部屋もフローリングの洋室へ改修したようである。そこは現在、ベッドを置いて安藤の母の生活スペースになっているようだ。


外装も、劣化は認められるにせよ、リフォームに合わせてカキ板が張り替えられたり、白壁が塗装しなおされたりしたのではないか、と高橋は推測した。


2000年といっても現在、2024年ともなれば24年前になるので結構昔ではある。


今年39歳になる高橋からすれば、2000年というと、中学3年生。まだ、父親がしていた高橋電気サービスを承継するかどうかもわからない時分である。


そして、古いまま残っている部分も多くある。


新築時から変わっていないであろう壁スイッチやコンセントから推察するに、昭和30年代に建てられたのではないか。


それより以前だと梁に碍子引きで配線してあったりするが、Fケーブルがところどころ露出で配線されている。


築年数でいうと70年ぐらいだろうか。


高橋は、家屋を一通り見せてもらったあと、図面を方眼紙に写しながら、職業柄、様々な事を観察し考えていた。


依頼者の安藤は、たぶんこの家を建てる前後に産まれたのであろうと思われる

風貌としては白髪の混じった頭髪の生え際が後退したやせ型の長身の男性であり、普段着ではあったが、裾や袖もやれていないし、髪も安藤の来客にあわせて櫛で整えたように見受けられて、身なりに対して意識的であるように感じられた。


この地域独特の方言もほぼ用いることなく話している。


きっと都会に出ていて、年老いた母の介護のためにここに帰ってきたのではないか、と安藤は予想した。


現在、この安藤家に暮らしているのは、安藤本人と、その母親である女性の二人ということらしい。父親はちょうど二年ぐらい前に亡くなった、ということだった。


初対面であったので詳しくは尋ねなかったが、母親は90歳を越えていると思われた。


廊下に多数設置された手すりに捕まって歩いてはいるが、腰も曲がっており、右足を若干引きずるように歩いていた。


安藤と高橋が会話していると、


「気が悪ぃしけ、去ねぇ!」


と突然高橋に怒鳴ったので、安藤が大事な来客である、と宥めると


今度は突然


「お客さんが来とんなるだったら、座ってまって、お茶でも出さんといけんがな。」


と安藤を諭す様に話し出す。


安藤は母親の無礼を謝罪しながら、認知症であるので前後関係の脈絡をもったコミュニケーションが難しい旨を語った。


安藤は、母親が認知症となったのを期に、現在の定年のスタンダードとなっている

65歳を待たずして一般企業を退職して以降、○○市に家族を残して単身赴任のような形で介護をしている、と語った。


○○市は、高橋電気サービスが所在する町から、東に車で3時間ほどかかる。


安藤の妻や、安藤の子供━━━ といっても、もはや高橋ぐらいな年齢になっているであろう彼女の孫らにも、突然情緒不安となって暴言を吐くので、一緒に暮らすことは難しいし、老人ホームに入れても他の入所者とトラブルになるのではないかと判断し、自分一人が単身赴任のような形で介護をしているという事情らしい。


高橋は、帰省してきた孝行息子という当初の予想を大きく外れることのない事情を聴きながら、それでも、その孝行息子が提示している


「屋外灯や屋内通路・トイレもすべてセンサー式照明に交換および増設を行い、居室や寝室においても、現在設置してある照明を残したうえで、センサー式照明を増設してもらえないか」


という、高橋をはじめ、大方の電気工事業者が疑問に思う内容について質問をせざるを得なかった。
















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