居室や寝室にセンサー式照明は必要ですか?
@Setz-chy
第1話 見積依頼
高橋 亮は、困惑していた。
センサー式の照明器具を設置してほしい、というのは至って普通の依頼である。
電気工事や水道工事、また催事音響からちょっとしたPC等の機器の設定まで
高橋電気サービスが営む事業の対応範囲である。
問題は、設置場所だった。
通常、センサー式照明の設置場所といえば、屋外であれば玄関先や庭先になる。
暗くなってからの帰宅時など、壁スイッチを操作しなくても人間の近接を検知して
点灯させる事ができるし、検知範囲を過ぎれば自動で消灯するので便利である。
屋内であれば、内玄関や廊下に設置すると、両手に荷物をさげていてもスイッチ操作
が不要なので、目的の部屋までスムーズに移動することができる。
トイレに設置すれば、切り忘れも防ぐことができる。
通常は居室等に、ましては絶対寝室には設置することはない。
その部屋の使用者が、自らの都合で点灯・消灯を行う。
そうでなければ、センサーはタイマーとセットで設計されているので、勝手に
点いたり消えたりしてしまっては不便なこと極まりない。
しかし
今回の見積依頼者は、屋外や通路やトイレを既存の照明からセンサー式に更新、増設する
だけでなく
寝室も含めた全ての居室について、既存の照明を残す形でセンサー式照明を増設して
ほしいと望んでいる。
高橋電気サービスのロゴが描かれた軽バンで、1時間ほど前に依頼者宅を出た高橋は
もうじき自宅兼店舗へ到着する頃合いである。
助手席には、高橋が見積用に方眼紙に書いた家屋の平面図が載っている。
今回の依頼主が、24年前に家屋が一度リフォームされた際に、施工した工務店の作成した図面を保存していたため、それをざっくりと書き写したものだ。
事務所へ戻ったら見積にとりかかるが、それなりの金額にはなりそうだ、と高橋は考えていた。
依頼された内容に困惑はしつつも、依頼主である安藤は誠実な態度の男性で
あり、冷やかしで依頼してきたわけではなさそうである。
安藤が誠実に依頼してきた以上、こちらも誠実に見積を出さなくてはいけない。
しかし
安藤の説明した、居室や寝室にセンサー式照明を取り付ける理由というのは、今一つ説得力に欠けていた。
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