第2話 パーティー
弘樹は社交的な性格ではない。気まずくならないように健一と話題を合わせていたが、間が持たなくて苦しかった。優香が弘樹の趣味について話をふってくれたので、ピアノを弾くのが好きだ言った。だだっ広いリビングルームの端にピアノが見えていたから。これ以上会話を続けるくらいなら、即興でピアノ演奏を披露する方がましだと思った。
優香がアップライトピアノのふたを開けて鍵盤を布でふき、弘樹に椅子の高さを合わせてから、どうぞと勧めてくれた。「このピアノは健一のために買ったのだけど、もう誰も弾いていないの。調律を何年もしてないから、ちゃんと音が出るかどうか分からないわ。」
「そんなに上手ではないので、調律なんて関係ないです」と弘樹。
誰でも知っていそうな曲を何曲か弾いて時間をつぶした。弾いているうちに楽しくなって止まらなくなった。健一のために、知っているアニメソングはすべて弾いた。
「ごめんなさい。下手な演奏をおきかせして。」と言って立ち上がった。優香が拍手をしてくれた。
「弘樹君ってすごいのね。こんな楽しい演奏を聞かせてくれた人は初めてよ。お茶を入れるからこちらに座って休んでちょうだい」と優香。
お茶を頂いたら、お暇しようと弘樹は思った。
リビングルームの座卓の前には大きなテレビ画面に接続されたゲーム機が置かれていた。健一がゲームをしようと弘樹を誘った。
お茶を飲みながら、弘樹は健一と対戦型の格闘ゲームを始めた。肥満児でどんくさい健一はゲームでは俊敏だった。対する弘樹はゲーム機など触ったことがなかったので四苦八苦した。弘樹が慣れてくると、まあまあ互角で戦えるようになった。
「弘樹って上達が早いね」と健一。
弘樹はボタンを押すだけのおもちゃに上達もくそもあるかと思った。「結構難しいね。健一君には勝てないよ。」
「トイレに行ってくるよ」と健一が立ち上がって部屋を出た。弘樹は今度こそお暇しようと腰を浮かしかけたとき、優香と目があった。
「弘樹君、もうちょっと健一といてあげてくれないかしら」と優香。
「でもそろそろ時間が」と弘樹。
「もし用事がないなら、夕飯も食べていってほしいの」と優香。
「用事はないですが、親に連絡をしておかないといけないので、電話してみます」と弘樹。
「いいわ、私から弘樹君のお宅に電話するわ」と優香。
親同士で面識があって電話番号を交換していたのだろうか。裕香は弘樹の母親に、息子さんをもう少しお預かりします、と伝えた。一応、弘樹からも帰りが遅くなることを母親に伝えた。
「健一は夏休みが始まってから、私以外の誰ともしゃべってないの。健一には友達が少なくて」と優香。
「ぼくも友達が少ないので、ちょうどよかったです」と弘樹は話を合わせた。
「この頃は私にもぞんざいで、部屋から出てこないことが多くて心配なの」と優香。
中学生の男子はそんなものだろうと思いながら「やさしいお母さんで健一君がうらやましいです」と弘樹は答えた。
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