答えと省察



デュエルが終わり、カフェは歓声と拍手に包まれる。しかし、アレックスにとってその雰囲気はほろ苦いものだった。勝者は輝く笑顔を見せる麗華だが、アレックスとその仲間たちの反応を見て、彼女の表情は曇る。彼らは落ち込むどころか、勝利したかのように笑い合い、楽しそうに会話しているのだ。


マイクを握ったままの麗華は、苛立ちと好奇心を入り交じらせた目でアレックスに近づいた。


「どうして悲しくないの?」と、腕を組んで挑むように問いかける。「負けて悔しくないの?」


少し驚いた様子のアレックスは肩をすくめた。「悔しがる理由なんてないよ。みんなと歌えたこと、それだけで十分だったから。」


麗華は眉をひそめ、その答えに戸惑いの色を見せた。「……それだけで? 負けたら普通、悔しいと思うものじゃない?」


アレックスは彼女の目をまっすぐ見つめて答えた。「僕は約束を守りたかっただけだ。それに、これは僕一人のことじゃない。」


その言葉は空気に響き、麗華は一瞬言葉を失った。彼の語る姿勢に、勝利の余韻を楽しむ余裕が奪われるかのようだった。


「じゃあ、私の勝ちを認めるってこと?」と、彼女は少し優しくなった声で問いかけるが、その中にプライドの余韻は残っている。


「そうだよ。君が勝った。」アレックスはため息をつく。「だから、もっとその勝利を楽しめばいい。」


このやり取りを見ていた仲間たちは驚きを隠せない。アレックスがこんなに素直に負けを認めるのは初めてだったが、同時に彼の謙虚さと誠実さを改めて感じていた。



---


一週間後


場面はアレックスの部屋に移る。薄暗い部屋の中、メキシコの音楽がコンピュータから静かに流れ、どこか懐かしさと孤独感が漂っている。デュエルから数日が経ち、アレックスはクラブの仲間たちと連絡を取っていなかった。笑い声と祝福の時間は過ぎ去り、彼の周りにはただ静寂が広がっていた。


その時、ドアを軽く叩く音が聞こえた。


「アレックス、入ってもいい?」母親の心配そうな声がする。


アレックスはすぐには答えず、やがて小さく「いいよ」と呟く。母親が入ってくると、彼の乱れた部屋と沈んだ様子に目を留めた。


「何があったの?」と、彼女は問いかけ、ベッドに座り込んだアレックスを見つめる。「一週間も部屋に閉じこもってるなんて珍しいわね。学校からも早く帰ってくるし。」


アレックスは言葉を探すように肩をすくめた。「ただ……考えていただけ。」


母親は彼の隣に腰を下ろし、その温かい存在が少しだけ心を和らげる。「話してみない?」


「……クラブで浮いてる気がする。僕が何をしても、彼らにはあまり気にされてないみたいだ。」


「人生、思い通りにいかないこともあるわ。でも、解決の糸口はきっと見つかるわよ。カズキさんに相談してみたらどう?」


アレックスはしばらく考え込み、首を横に振った。「いや、彼に迷惑をかけたくない。仕事もあるし、これ以上甘えられないよ。」


母親は頷き、理解を示す。「それなら、他の誰かに相談してみたら?」


「誰に?」アレックスは少し戸惑った表情を見せる。


母親は微笑みながら言った。「リビングであなたを待っている女の子がいるじゃない。」


アレックスは驚き、急いで立ち上がる。心の中で疑問や不安が渦巻く中、階段を駆け下り、リビングへ足を踏み入れると、そこにはサクラが立っていた。彼女はどこか緊張した表情で、ずっとこの瞬間を待っていたようだった。


「……こんにちは、アレックス。」彼女は唇をかみながら言った。「少し話せる?」


アレックスは圧倒されながらも、彼女の真剣な目に引き寄せられるように頷いた。そして彼女を部屋に招き入れ、ドアを静かに閉めた。この会話が、自分の閉ざされた世界から抜け出す一歩になるかもしれないと感じながら――。


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