デュエルの約束



夕日が地平線に沈むころ、アレックスは音楽室でクラブのメンバーたちと再会した。彼の真剣な表情に、その場の全員が注目する。


「伝えたいことがあるんだ。」

アレックスが口を開くと、みんな静まり返った。


ユイは彼を興味深そうに見つめるが、同時にどこか警戒した様子も見せる。

「昨日…レイカの挑戦を受けることにしたんだ。歌のデュエルだ。」


部屋中に緊張感が走る。ユイは眉をひそめ、明らかに怒りを含んだ声で言った。

「わざわざあんなわがままなお嬢様のために、私たちを見捨てるかもしれないっていうの?」

彼女の冷たい視線がアレックスを射抜く。そして何より、そのレイカがクラブのリーダーになるかもしれないということを嫌っているのが伝わってくる。


アレックスは深いため息をつき、彼女の気持ちを理解しているかのように頷く。

「わかってるよ、ユイ。でも、レイカのやっていることはもう度を越えている。これ以上、彼女に好き勝手されるのは耐えられないんだ。」


ユイは一瞬彼を見つめた後、ため息をつき、目を閉じる。そしてゆっくりとした笑みを浮かべながら、アレックスに向き直る。


「ま、私たちはあなたを信じてるわ。」

その言葉には、信頼と決意が込められている。その笑顔に、アレックスは少し驚いた。ユイがこんな風に自分に微笑むなんて、これまで見たことがなかったからだ。


その場にいたケンタも、ユイとアレックスのやりとりを静かに見つめ、ユイの態度の微妙な変化に気づいていた。


他のメンバーがその知らせを消化している間、サクラはどこか不安げだった。彼女の思考は過去へとさまよい、かつてのレイカとの友情を思い返していた。サクラはそのことをアレックスに話すべきかどうか悩んでいたが、その思考はアキの興奮した声で中断された。


「これ、めっちゃ面白くなるぞ!」

目を輝かせながら、アキがアレックスに抱きついて言った。

「どこでやるの?それに、元アイドルを倒すためにどんな曲を歌うつもり?」


アレックスはアキの熱意に少し戸惑いながらも、その応援には感謝しているようだった。

「カフェテリアのステージだよ。それから曲については…」

彼は仲間たちを見回しながら、真剣で決意に満ちた表情で答えた。

「派手なものは狙わない。ただ、自分らしいものを歌いたい。それだけだ。」


デュエルの夜


カフェテリアはいつも以上に人で溢れていた。学生たちはこのデュエルを一目見ようと集まり、期待感に満ちている。照明が落ち、小さなステージが明るく照らされると、まずレイカが華やかに登場した。


彼女はきらびやかなドレスを纏い、自信満々の様子でマイクを握る。観衆に温かい声で挨拶をすると、音楽が流れ始めた。


レイカのパフォーマンスは圧巻だった。アイドル時代の経験が光る力強い声と正確な動きで、観客を魅了する。彼女の演技は完璧に計算されており、観衆を圧倒するカリスマ性に溢れている。彼女がポーズを決めて歌い終わると、一瞬の静寂の後、場内は割れんばかりの拍手で包まれた。


アレックスは深呼吸し、自分の番を待っていた。ステージに上がると、彼のシンプルな装いと落ち着いた態度が場の雰囲気を変えた。観衆は彼を好奇心と少しの期待を込めて見つめる。


音楽が始まると、アレックスは目を閉じ、歌い出した。その声は柔らかく、真っ直ぐで、聴衆一人ひとりに直接語りかけるようだった。


アレックスの曲:「心の声」


このざわめく世界で、

真実の響きを探している。

影に輝く光、

けれど僕はただ瞬く星じゃない。


時は過ぎて戻らない、

僕の声は架け橋で、僕の家だ。

迷う時も、倒れる時も、

夢を見ることは止めない。


一音ずつ立ち上がり、

空へ向かい、恐れを捨てる。

僕はただの名前じゃない、歌そのものだ。

心の声たちが、信念でつながる。


アレックスのパフォーマンスは、派手さこそないが、その誠実さが観衆の心に深く響いた。涙ぐむ者さえいた。彼の歌が終わると、静かな感動が会場を包み、徐々に温かい拍手が湧き上がった。それはレイカの拍手ほど派手ではなかったが、間違いなく真心からのものだった。


レイカは舞台裏からその様子を見つめ、顔をしかめた。彼女はこれほどシンプルなパフォーマンスがこれほどの影響を与えるとは思いもしなかった。


ステージを降りたアレックスを仲間たちが迎えた。アキは彼の背中を叩き、笑いながら言った。

「やると思ってたよ!」


ユイも微かな笑みを浮かべ、彼にそっと囁いた。

「ありがとう、アレックス。本当にこのクラブの意味を思い出させてくれた。」


アレックスは頷き、結果がどうであれ、自分が得たものはそれ以上に価値があると感じていた。それは仲間たちの尊敬と信頼だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る