疑惑とステレオタイプ


霊華が軽音楽部への入部に失敗して以来、青龍学園では奇妙な出来事が起こり始め、それらが起こるたびにアレックスが「なぜか」その場に居合わせる状況が続いていた。このせいで彼に疑いの目が向けられ、噂が広まり始める。それは彼にとって理不尽であり、非常に苛立たしいものだった。


最初の事件は、音楽室から高価な機材が消えたことだった。アレックスはケンタと話している最中、近くで学生たちが小声で噂しているのを耳にする。ケンタが彼に顔を近づけて囁く。


「誰かが音楽室の機材を盗んだらしい。」


ケンタの言葉にはどこか探りを入れるような響きがあり、アレックスは眉をひそめた。


「ほう、盗難か! そりゃきっとメキシコ人がやったに違いないよな!」

腕を組みながら皮肉たっぷりにそう言い、アレックスはため息をついた。そして小声でぼそりと呟く。

「次は“みんなもう知ってるよな”とか言い出すのか?」


ケンタは笑ったが、アレックスの言葉の意味が分からなかったようで首を傾げた。

「え、今何て言ったの?」


「いや、何でもない。ただな、噂話を真に受ける奴が多すぎるってだけさ。」


カフェテリアでの再びの疑惑


その後、カフェテリアで昼食を買おうとしていたアレックスに、またしても疑惑の目が向けられる。ちょうどその時、支払いカウンターの現金が消えたという話を耳にする。一部の学生たちが彼をちらちらと見ているのを感じ取り、アレックスは苦笑いを浮かべながら言った。


「そりゃそうだろうよ! メキシコ人はサンドイッチとジュースを盗むためにここに来たんだろうな! +++で、次は何だ? とうもろこしでも売ってるって思ってるのか?+++」


これを聞いた周りの学生たちは笑い出したが、一部は驚いた表情を浮かべていた。ケンタは隣で笑いながら言った。

「なぁ、アレックスって、いつもそんな面白いスペイン語のこと言ってるのか?」


「そうさ、母国語を忘れないためにな。それにこういう時は、文句言っても誰も分からないだろ?」

アレックスは肩をすくめながらそう答えた。


校長室への呼び出し


そんなことが続く中、校長から「一連の偶然」について説明を求めるため、呼び出されることになる。校長の前に座ったアレックスは必死に弁解しようとするが、言葉が足りずスペイン語が混じってしまう。


「ほんっとに俺じゃないっすよ! 俺がここに来て騒ぎ起こすわけないじゃないっすか… +++いや、本当ですって!+++」

そう言って大きくジェスチャーを交えた。校長が困惑した表情を浮かべているのに気づき、慌てて付け加える。

「これは…あの、メキシコの言い回しです。悪い意味じゃないんで…本当に。」


最終的に校長は警告だけを与え、その場を終わらせた。部屋を出たアレックスは、悔しそうに独り言を呟いた。


「やれやれ…メキシコ人はみんな犯罪者だとでも思ってんのか? ふざけんなよ。」


次の事件と霊華との対立


翌日、軽音楽部の練習中、楽譜がすべて乱され、楽器の配置もめちゃくちゃにされているという事件が起きる。顧問の先生がアレックスに事情を尋ねた時、彼は皮肉たっぷりに答えた。


「そうだなぁ。俺が昨夜ここで秘密裏にマリアッチを結成したってことにしておけばいいんじゃないか?」


ケンタや他の部員たちは吹き出しそうになりながらも笑いを堪えていたが、ついには大笑いしてしまった。顧問の先生は困惑しつつも、それ以上追及するのをやめた。


アレックスは、誰かが意図的に自分を陥れようとしているのではないかと疑い始める。桜と共に少し調べた結果、ある事件現場に霊華のイニシャルが刺繍されたハンカチを発見する。憤慨したアレックスは直接彼女を問い詰めることにした。


「そんなにボーカルのポジションに必死なのか? 俺を悪者に仕立て上げるほどに。」


霊華は無邪気さと傲慢さが入り混じった笑みを浮かべて答える。

「何のことかしら、アレックス? 私がそんなことするわけないじゃない。まぁ、世の中には色々なことが“たまたま”起きるものよね。」


アレックスは苛立ちを隠せず、低い声で言い放った。

「やれやれ、今度は“主人公気取り”の悪役が出てくるってか? ほんと呆れるぜ。」


その言葉に霊華はムッとした表情を浮かべたが、すぐに気を取り直し、挑戦的な笑みを浮かべた。

「そこまで言うなら、ボーカルを賭けて勝負よ。歌の勝負をして、あなたが勝ったら謝ってあなたの潔白を認めるわ。でも私が勝ったら、この部から出ていってもらうわね。」


周囲の部員たちは息を呑んで見守っている。霊華に不信感を抱く者もいたが、アレックスはただ腕を組んで冷静に答えた。


「いいだろう。その勝負、受けて立つ。ただし、これが最後だ。この学園で“メキシコ人の悪役”にされるのは、もうたくさんだからな。」


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