第13話 カリーナ・オルロフ

 アンゼリカちゃんが告げた、勇者はこの中にいます発言。


 絶対違うと思うけど、残る1人であるカリーナを調べて、潔白を証明しておかなくっちゃね。

 

 私はカリーナの真意を確かめるため、女子寮の部屋で、今日の出来事を話しつつ、カリーナが私をどう思っているのかの探りを入れていくのであった。


「ねえ、カリーナ。私のことをどう思う?」


 女子寮の自室に戻って、真剣な眼差しで尋ねてみる。

 

 夜の女子寮は静寂に包まれている。

 見回りの寮長が怖いから、消灯時間前にみんな眠るんだよねえ。

 私は単にいつも眠いから寝ちゃうけど。

 

 そんな部屋の中は、二人の息遣いだけが聞こえるほど静かだ。

 この静けさが、二人の会話をより親密なものに感じさせる。


「ん〜?逆ハーレム羨ましいね〜って思ってるよ〜」

「茶化さないでよ〜。こっちは困ってるんだから」


「あはは、贅沢な悩みだね〜。

 私だったら全員キープするのに、リーシャったら全員に色目を使わないよね〜。

 でも、それで全員の熱が冷めないってのが、また面白いよね〜」


 う〜ん、この反応。

 やっぱりカリーナは、ただのリーシャである私に別の目的なんてない、友人と思って接してくれてる態度だ。


 ふうっと、安堵のため息が漏れるよ。


「ファーストキスすら大事にしてるけど、すでに私に奪われてるのにね〜」


 ベッドに転がりクスクスと笑いだすカリーナ。


 ……はい?


「だってリーシャと相部屋で、隣で寝てるんだぞ〜。

 我慢する必要ないじゃん」

「ちょっ⁉寝てる私にキスしたってこと⁉」


 マジで?

 まったく記憶にないぞ。

 いや、そりゃあ寝てたなら気づくわけもないんだけどさ。


「嘘……私の唇はすでにカリーナの物になって……いた⁉」


 慌てる私を見て、カリーナはまたクスクスと笑った。


「冗談だよ〜」


 まあ、わかっていたけどさ。


「もう、そういう冗談はなし!

 ファーストキスはしっかりくっきり記憶して、お墓に入るまで大事な想い出にしたいんだから」

「あはは、ごめんごめん。

 でもさ〜、私で良ければいつだってリーシャのファーストキス相手になってあげるよ〜」

「……その心は?」

「リーシャが殿下たちの誰かと結婚しても玉の輿じゃん?

 私がリーシャの側仕えのメイドになって、不倫関係になって、その家の財産と旦那を分け合うためだよ〜」


 ふむふむ。

 つまりカリーナは、私と性的な関係のまま嫁入りした私について行こうとしてるな?

 私と不倫を楽しみつつ、旦那の愛人に収まって3人で過ごそうよって考えだな?


 ……考えたな。

 帰ってきて部屋を開けたら嫁とメイドがイチャイチャしていたとしよう。

 大抵の男なら、誘われたらそのまま嫁だけではなくメイドにも手を出すだろう。


 出さない男はいないと断言するね。

 すでに嫁が不倫していたのだ。

 私が男だったとしよう。

 嫁が美少女と浮気していて一緒にどう?って誘惑してくる!

 その誘惑から逃れられるわけがないじゃないですか!


「……まさか!そのために私のファーストキスを狙ってたりして!」

「フッフッフ、気づいたか。

 私は家柄も男爵家だし、何か優れた能力があるわけでも、人間的魅力に溢れた存在でもないのさ〜。

 利用できるリーシャは、とことん利用しなくっちゃね〜」

「策士!まさか策士がこんな身近にいたなんて!」

「はっはっは、気づかれちゃったか〜。

 もっとムード作ってから、ファーストキスを奪おうと考えていたのにな〜」


 そう言って、唇を尖らせて私に迫ってくるカリーナ。


「てい!冗談は大概にせい!」


 カリーナのおデコにチョップしていく。


「うわ~ん。本気だったのに〜」

「嘘つけ〜!もう、私がこんなに悩んでいるっていうのに!

 もういい!寝る!」


 カリーナめ、からかいモードをやめる気がないな。

 それはそれでホッとはするけど、もう少し私のガチ悩みを真剣に聞いてもらいたいのに。


 布団被って、ランプを消す私だったけど……


「う〜ん、リーシャさあ」

「なあに?ギャグなら明日付き合ってあげるから……」


 ウトウトしながら呟く私に、カリーナは普段の声色とは違う、低い声で告げてくる。


「リーシャは本音隠しているよね?

 それを教えてもらうまでは、逆ハーレームの悩みにマジのアドバイスは無理だよ」


 なっ⁉


 ガバっと起きて、カリーナの寝てるベッドを見る。

 カリーナは目を閉じたまま、寝息を立てていた。


 今の……どういう意味?

 いや、カリーナだし、そのままの意味だろう。


 ただ、心にグサリときたぞ。

 カリーナの言う通りだ。


 私は戸惑いながらも、カリーナの言葉の意味を考える。


 本音を隠している……そう、私はたしかに重要なことを隠している。

 それを指摘されたことで、罪悪感と不安が胸の中でぐるぐると渦を巻く。

 誰かを信じたい気持ちと、魔王だったという前前世の秘密。

 でも、それを話すことはできない。

 誰も信じないだろうし、むしろ危険かもしれない。


 私の本音、私の周りにいる誰かが、私を2度も殺した勇者で、今世の私のファーストキスを狙っている、という危機に対処していること。


 ……うん、こんなの説明したら、頭おかしいって思われるだけじゃん!

 ああもう!こんなのどうやって説明して教えればいいんだよおおおおおお!


 勇者の存在、前世の記憶、そして現在の状況。

 これらを全て説明することの難しさを考えると、頭が痛くなる。

 信頼できる友人に打ち明けたい気持ちと、これを話したら今の生活、全てが崩れてしまうかもしれない恐怖。

 

 ……ホントどうすれば良いんだよ。

 

 おのれ勇者め!

 木を隠すには森の中作戦をしてるかのごとく、私を好きだと公言する集団に潜り込みやがって!


 私を好きな集団……か。

 もしかして、これも勇者が仕組んでいたりして。

 私を有頂天にさせてからの、絶望を味あわせるためとか?

 それで全員勇者の仲間でカリーナもそうで、私を弄んで楽しんでるとか?


 そうなると、全員が私を好きじゃないともなるけど、それはそれで当たり前だしなあ。


 眠気が覚めちゃったよ。


 小腹も空いたし、ちょっと食堂を漁ってくるかな?


 私はもそりと起き上がって、巡回してるであろう寮長を警戒しつつ、部屋から出ていくことを決意する。


 カリーナはいつも笑顔で、誰とでも楽しそうに話す。

 でも、時々見せる真剣な表情や、意味深な言葉。

 彼女の本当の姿は、まだ誰も知らないのかもしれない。


 部屋を出る直前、カリーナの方を振り返ると、彼女の寝顔が月明かりに照らされていた。

 その瞬間、彼女の唇が微かに動いたような気がした。

 笑っているように見えたのは、きっと私の気のせいだろう。


 それから数分後、私は食堂に潜り込んで寮長に見つかり、ゲンコツをもらったのであった。


 ***


『岩下真帆殺害事件


 第7容疑者


 カリーナ・オルロフ


 年齢 16歳 王立学校1年生

 容姿 栗色ロングヘア 貧乳 背丈は女子平均

 身分 レフレリア王国男爵家の次女

 能力 誰とでも笑顔で喋れるよ

 性格 天然 お調子者

 人生 リーシャを踏み台にバラ色の人生送る予定

 目的 リーシャと不倫すること(本当かは不明)』

 

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