第7話 ソフィア・グラナーク(後編)

 目を覚ますと、見知らぬ天井に、両手足に見知らぬ鎖。

 下はふかふかのベッドだ〜。

 凄く寝心地いいぞ〜。


 ……は?鎖⁉


「お目覚めになられましたか?リーシャさん」


 不気味な笑顔で佇むソフィアさんが、私の顔を覗いてきた。


「えっと、どういうことか説明してほしいかなあ?

 やっぱ、あれかなあ?

 イワン王子と婚約するはずだったのに、私が現れて、そんな話がなくなったことに対する恨みとかかなあ?」


 女子グループが私に敵意を持ってたのは知ってたのに!

 やられた!

 下っ端にやらせるのではなく、いきなり大ボスが仕掛けてくるとは!


「あらあら?何を言っておりますの?」


 そう言って、制服を脱いでいくソフィアさん。


 は?ちょっと待って!なんで脱ぐの⁉


 ……ん?体操服?しかもそれって……もしや⁉


「うふふ、変態さんは本当にいたのですよ?

 ただ、変態さんはわたくしだったというだけ」

「ちょっ⁉ちょっと思考が追いつかないから説明して!」


 私の体操服を着ているソフィアさんの妖艶な笑み。

 何?なんなのこの展開⁉

 新手の精神攻撃の実験体にでも、私はされているのか?


「わたくし、入学式でリーシャさんを見たときから、ずっと一目惚れしてましたの。

 ……安心してくださいまし。

 今日はわたくしのお部屋で、ファーストキスをするだけといたしましょう。

 わたくし、ゆっくりじっくりと進展する恋愛が好きなのですわ」


 ああ、あれかあ。ガールズラブってやつかあ。

 うん、男のゴツい身体よりも、女の子の柔らかい身体、いいもんねえ。


 って!ファーストキス⁉

 んなのやらせるかあああああ。


「ちょっ⁉私に一目惚れってマジで?」

「おかしいですか?

 殿下をコークスクリューパンチしたシーン。

 今でも脳裏に焼き付いてますわ」


 うっとりするソフィア。


「今日もクンカクンカを楽しんでいたら、爺やからリーシャさんが現れると聞いて、慌てて逃げようとしたんですの。

 ……まさかリーシャさんとぶつかってしまうなんて!

 ああ、これはまさに天運!

 今日は、わたくしとリーシャさんが結ばれる1日となるのですわ!」


 おふう……ソフィアが走っていた理由それかあ。

 納得したよ〜。


 って!納得できるかあああああああ!


「時々、私のほうを睨んでいたのってまさか私じゃなくって……」

「ええ、殿下にボリスにフェリクスにですわ。

 わたくしのリーシャさんに色目を使う。

 ……万死に値しますわ!」


 いやあ、私へのイジメとかじゃなくって良かった〜。


 ……いや、公爵家令嬢が王子や元帥の息子と宰相の息子に殺意を向ける。

 これのほうがヤバくね?


「大体、ボリスもフェリクスも幼い頃から知っていますが、女性の扱いが下手くそで有名でしたわ。

 殿下も表面上は女性に優しいですが、苦手意識があるのをわたくしはわかってますわ。

 これはわたくしが5歳の誕生日のことなのですが……」


 なんか、ソフィアの長くなりそうな語りが始まったぞ。


 今がチャンスだ!


「フンス!」

「なっ!鎖を一瞬で⁉爺や!次の鎖の準備を!」


 無音でどこからともなく現れる爺やさん。

 白髪と白い口髭、タキシード姿から溢れるオーラが半端ない。

 うん、これは凄腕だね。

 一瞬で私の身体に黄金の鎖を絡めていく。


 だが、思ってたほどではない!

 これなら私の敵ではない!


「なっ!それがし特性のオリハルコンの鎖が⁉」


 オリハルコン?

 ゲームでよく聞く超レアアイテムだっけ?

 そんなのを簡単に壊す私、やっぱり魔王の力が戻りつつあるのかな?


 驚愕する爺やさんを腹部へのパンチで倒し、私はソフィアさんに向き合っていく。


「どうして!どうしてわたくしの気持ちを踏みにじるのですか⁉」

「ソフィアさん、貴女の気持ちは……嬉しい」


 いや、嬉しくはないけど、ここは刺激しないように説得しなくては。


 ただちょっと嬉しいのかな?

 ソフィアさみたいな美少女に好かれるって、悪い気はしないし。


「でも、誘拐して無理やりファーストキスしようだなんて、犯罪です!

 そんなやり方では、成就する恋も破綻してしまいますよ!」

「は、犯罪……わたくしが……犯罪?」


 お、効いてる。

 音は真面目っぽい!助かる!


「そうですね。犯罪です。

 私はソフィアさんと友人関係になりたいってずっと思ってました。

 ですので、友達からで良ければ今回のことは水に流します」

「そんな……犯罪を犯したわたくしを許すと仰られるのですか?」


 縋るように見てくるソフィアさんに、私はこう言うのであった。


「はい、許します」

「神!」


 はい?


「あの、ということは、わたくしが今までリーシャさんの私物をお借りして、クンカクンカしていた全ての罪を赦してくださるのですね。

 これからも、クンカクンカさせてくれるということでよろしいのですわよね!」

「はい?」


「ああ!なんという素晴らしい日でしょう!

 爺や!今日は御赤飯を炊いてくださいまし!

 わたくしとリーシャさんの友人成立記念ですわ!」


 は、お任せくださいお嬢様と言って消える爺や。


 へえ?人って消えることができるんだ〜。


 って!さっき倒したよね?あの爺やさん⁉

 無傷で、何事もなかったかのように起き上がって消えたんだけど⁉


 うん、全然理解できんぞ。


「えっと、友達は嬉しいけど、クンカクンカは遠慮してくれるともっと嬉しいかなあ。

 ていうか、ホントなんで私にそこまでの想いを?」

「決まってますわ!

 自由に生きて、殿下すらけんもほろろにするリーシャさんに憧れたんですの!」


 目を輝かせながら言うソフィアさん。


 ……マジかあ。


 まさかと思うが、ソフィアさんが勇者の転生体ってオチもあるのかな?


 今まで異性ばっかりを気にしてたけど、同性についても注意せねばならないのかあ。


 私のファーストキス。

 ずっと男性に奪われる妄想してたけど、ソフィアさんに奪われる可能性も出てきてしまうとは!


 ま、それはともかく。


「ソフィアお嬢様。御赤飯の御用意ができました。

 リーシャ殿もどうぞご一緒に」


 爺やさんから漂ういい匂いに、私が抗えるわけがなかったのであった。


 結局今日は学校休んで、ソフィアさんの家で御赤飯をご馳走になる私。


 はあ、美味しかった。

 でもめっちゃ疲れたよ。


 寮に戻って、風邪で学校を休んでいたカリーナからの一言。


「今日どこ行ってたの〜。

 王子様とボリス様とフェリクス様が女子寮に入ろうとして連行されちゃったよ〜」


 学校、休んじゃったからなあ。

 でも私を心配して、女子寮まで入って行こうとするとは……アホなのかな?


 消えた私を心配してなんだろうけどさあ。

 

 私はその光景を想像して、ちょっとクスリと笑ったのであった。


 ***


『岩下真帆殺害事件


 第4容疑者


 ソフィア・グラナーク


 年齢 15歳 王立学校1年生

 容姿 薄くて長いピンク髪 ボンキュッボン 超絶美少女

 身分 レフレリア王国公爵家の公女

 能力 凄腕の爺やがおりましてよ

 性格 欲しいものは我慢しませんわ

 人生 リーシャに出会うまでは順調だった

 目的 リーシャと結婚すること(本当かは不明)』

 

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