第6話 ソフィア・グラナーク(前編)
王立学校に入学してから、ひと月が経過していった。
相変わらず、時々私の私物がなくなるけど、全部イワンかボリスかフェリクスが見つけてくれるので問題なし。
う~ん、イジメにしては無事に返ってくるんだよなあ。
ちょっと汚れや皺ができているぐらいで。
それ以外は順風満帆に、日々を過ごしているのであった。
ただ相変わらず、女子の友人はカリーナだけ。
イワンやボリスやフェリクスが私に話しかけたら、女子はみんなすんごい視線で睨んでくるんだよなあ。
公爵令嬢のソフィアさんが睨むから、他の女子たちはそうするのが義務かのようにしてくるし~。
これは早急になんとかしないとな~。
「カリーナ、朝だよ~起きて~」
寮で相部屋にもなっていたカリーナのベッドに声をかける。
彼女が寝坊とは珍しい。
いつも私より先に起きているのに。
「ん? 息が荒いし、顔が赤い! カリーナ、大丈夫!」
完全に風邪っぽいぞ!
そういえば昨日、クシャミしてたっけ。
「フ……私はもうダメだ。私を置いて先に進むんだリーシャ……」
「そんな! イヤだよ私! カリーナを置いて行きたくないよお……一人ぼっちは寂しいよお」
「……大丈夫さ。リーシャなら……できるさ。さあ、早く行くんだ。私の魂も……後を追っていく……さ。ガクッ」
「カリーナ? カリーナあああああああああああ!」
とまあ、ちょっとした小芝居をし終え、寮母さんを呼んでカリーナを任せてから行く王立学校。
ちょっぴり早く出てしまう。
だっていつも一緒に朝食を採って、通学を共にするカリーナがいないので。
はあ、今日は女子と会話せずに1日終わるのかなあ。
寂しいなあ。
そう思いつつ廊下を曲がった時だ。
何かにぶつかって尻もちをついてしまう。
「いたた……もう! 走ってきたのわかるんだからね! ってうわっ!」
ぶつかってきた人を注意してやる!
と目線を向けると……
「キュン……」
伸びている公爵家令嬢のソフィアさんが視界に入ってきた。
はわわわわ、女子グループのリーダーじゃん!
マズい! マズいってこれ!
これ、事情を知らない人が見たらどう思う?
平民なのに王立学校に通っていて火薬庫と恐れられている女子生徒が、公爵家令嬢を暗殺しようとしたと勘違いするんじゃね?
その後待っているのは、逮捕→拘束→処刑ルート!
うわあああああああ、冗談じゃない!
早く、誰も気づかないうちに事件をなかったことにしないとおおおおおおおおお。
目が覚めないな……よし、担ごう。
おお、超美人だし、薄くて長いピンク髪も綺麗。
だけど一番凄いのは、ボンキュッボンな身体つき。
……羨ましいよお。
なんでだろ? 涙が出てきちゃうよ。
医務室に連れていくと、先生もまだ出勤していないみたい。
ただ、鍵が開いていたから、お邪魔しまーすと囁いて入り、ソフィアさんをベッドに寝かせていく。
よし、目撃者なし!
後は私が彼女に気づかれずに去れば、完全犯罪成立だ!
いや、私は悪いことしてないからね?
「う~ん……」
ヤバい! 目覚めそう! 早く逃げなくては!
そう思った私だけど、思い直す。
こんな美少女をベッドの上に放置する。
それは犯罪なのではないかと。
考えてみるといい。
私のように、医務室に入ってくる生徒がいたとしよう。
それが男子であると仮定しよう。
入ったら超絶美少女が寝ているのだ。
イタズラされたら、それは放置した私の罪になるのが当然じゃないですか!
うん。私が男だったら絶対襲ってたよ。
そのくらい、このソフィア・グラナークという公爵令嬢様は魅力的なんだもんね。
「う~ん……ここは?」
「あ、目が覚めた? どこか痛いところない? 大丈夫? 廊下で倒れていたから医務室に連れてきたんだ」
「わたくし……走っていたような……? はっ! リーシャ・リンベルさん⁉ どうして貴女がここに⁉」
おお、初めてカリーナ以外の女子から名前を呼んでもらえたよ。
嬉しいなあ。
「なんで、泣いているのです?」
しまった! 感極まっちゃった。
「な、なんでもないって。それより、大丈夫そうだね。どう? 教室に戻れそう?」
「……はい。貴女がわたくしを医務室へ? ご迷惑をおかけしたようですわね」
「いいっていいって。それより急いでいたみたいだけど、なんか大事な用事があったの?」
私がそう尋ねると、ソフィアさんは天井を見上げた。
あ、これ、なんか長話が始まるパターンだ。
「聞いてくださいますか? リーシャさん。わたくし、見てしまったのです。教室で、リーシャさんの私物でハアハアしてる変態さんを!」
な、なんだってえええええええええええ。
「今日、わたくしは日直でした。ですので早く登校したのです。寝ぼけ眼の爺やを叩き起こして、御者させて馬車に揺られて、いつもより早く登校したのです」
「ふむふむ」
「教室には誰もいないと思い込んでました。ですので素早く日直の仕事を爺やにやらせて、わたくしは優雅なひと時を過ごすべく、ティータイムを馬車でしていたのですわ」
「ふむふむ?」
「爺やが『終わりました、お嬢様』と言うので仕事ぶりをチェックすべく、教室に入ると……」
「入ると……?」
「なんとそこには、リーシャさんの体操服をクンカクンカしてる変態さんがいたのです!」
「な、なんだってえええええええ⁉」
「わたくし、怖くなりまして、爺やの背中を押して走り去ったのです。おそらく、爺やはもう……」
ところどころ爺やへの扱いが酷い気がするが、今はそんなのどうでもいい!
私の体操服が無事かをチェックしなくては!
昨日の私! なんで洗濯はまだいいやって持って帰らなかったんだよ~!
「行きましょうソフィアさん。私の体操服と、ついでに爺やさんを助けに!」
「わたくし、怖いのです! 変態さんとまた会ったらと思うと怖くて足が竦んでしまうのですわ!」
「任せて! 私、こう見えて結構強いんだから!」
女子グループの頂点にして公爵令嬢のソフィアさん。
そんな肩書はどうでもいい。
こんな美少女を怯えさせたのだ。
犯人は絶対この手で始末してやる!
私の体操服の恨みも晴らすんだから!
「リーシャさん……心強いですわ。ですが、行く前にこちらを舐めてくださいまし。我が公爵家御用達の飴玉ですわ。心が落ち着くんですの」
おお! 女子友からお菓子を貰うイベントキター!
「ありがとう! うん! 美味しい……あ、あれ?」
意識がクラクラする。
ど、どういうこと……
私は意識を失うのであった。
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