第2話
いや…。
聞き間違いの可能性もある。
もう一回確認してみよう。
「…え?ちょっとよく聞こえなかったからもう一回言ってくんない?」
「聞こえなかったの?私と付き合ってみないって言ってるの!」
なんと聞き間違いじゃなかった…。
「…え?なんで急にそんな話に?もしかして…俺のこと好きなの?」
好かれることした覚えないんだけど?
なんなら、わざと嫌われるようなことしたんだけど?
「え?違うよ?そもそも私、肝尾くんのことあんまりよく知らないし」
違うのかよ!
「なら…なんで?」
「私ね、自分で言うのもなんだけど、すっごく男子からモテるでしょ?」
何言い出すかと思えばモテ自慢かよ!
そういうのマジうぜぇ!
「…それがなに?」
「それで男子たちからは毎日告白されて、チヤホヤされて、何しても許されて、学校のアイドルとか言われて、ファンクラブまであったりするの」
そこまでかよ。
話を聞く限り、花宮のモテ自慢のウザさより男どものキモさの方が上回るんだけど…。
「だから、それが俺と何の関係があるわけ?」
「でもね、肝尾くんだけはそうじゃなかった。私、男子からあんな扱い受けたの初めて。私に興味を持たない男子なんて今までいなかった。だからこそ、悔しいと思っちゃった」
「悔しい?」
「うん。クラスの男子全員ですら落とせないなんて学校一の美女として失格だと思うの。だからね…」
なんか嫌な予感がする…。
「私、決めた。絶対に肝尾くんを落としてみせるって!」
なんだよそれ!
学校中の男子全員落とさないと気が済まないタイプかよ!
「そのためにも私のことを沢山知ってもらおうと思ってね。少しの間でいいから私と付き合ってみようよ!」
「え?嫌だけど?」
「即答!?私、学校一の美女だよ!?もうちょっと迷うとかないの!?」
自分で言うか。
そもそも二次元絶対主義の俺からしたら、三次元の女なんて大体同じに見えるんだよ。
「だって俺に何のメリットもないじゃん。それに現実の女と付き合うなんて浮気だし」
その時、俺の携帯に通知が入った。
画面にはこう書いてあった。
『ご主人様♡もうすぐ次のイベントが始まるにゃん♡待ってるにゃん♡』
しまった!
アイリちゃんを待たせてしまっていた!
早く帰らないと!
「ごめんね〜♡アイリちゃ〜ん♡今すぐ会いに行くからね〜♡」
俺がこう言うと、花宮が驚いた顔をした。
「あ…愛莉ちゃん!?どうしたの!?急に名前呼び…しかも“ちゃん”付けだなんて!」
あ、そうか…。
花宮の名前も愛莉なのか…。
これでは面倒なことになる。
「アイリちゃんっていうのはこの子!俺の嫁だよ!断じてお前のことじゃないから!」
「へぇ…。肝尾くんってこういう子が好きなんだぁ…」
「当然だ!俺は生粋の二次元オタク!三次元には微塵も興味ないんだよ!」
「…となると、ライバルは二次元…。しかも私と同じ名前だなんて…これはかなりの強敵…」
「…てなわけで、俺はこれで。それじゃ!」
「面白くなりそう!絶対に私の可愛さで落としてみせるから!ついでに私も今日から名前で呼ぶね!またね!拓くん!」
「…え?名前呼び?」
そういえば、家族以外に下の名前で呼ばれたのなんていつぶりだろうか…。
―――――――――――――――――――――
その夜、いつも通り俺はそのゲームをしていた。
「ご主人様〜♡愛してるにゃん♡」
「アイリちゃ〜ん♡俺も愛してるよ〜♡」
やっぱりアイリちゃんって言う度に花宮の顔が思い浮かんでしまう。
本当は花宮のことなんて忘れたいんだけど…。
面倒なことになったな…。
落としてみせるってことは、毎日絡まれることになるのか…。
俺は平凡なぼっちライフを満喫したいだけなのに、花宮がプライド高すぎるせいで無理になった。
それにしても名前で呼ばれるなんて…。
三次元とはいえ、女子に下の名前で呼ばれたのは初めてかもしれない。
なんか…ちょっと嬉しいような…。
…いやいや!
なに考えてんだ俺!
三次元のことが気になるわけないだろ!
俺にはアイリちゃんがいるんだから!
― 翌日 ―
いつも通り俺が学校に向かっていると…
「あ!拓くん!おはよー!」
後ろから声が聞こえた。
“拓くん”ってことは…、
「は、花宮…」
「え〜?まだ苗字呼びなの?お互いに名前呼びしようよ!」
嫌だね。
なんでアイリちゃん以外にアイリって呼ばなきゃいけないんだよ。
「俺たちのアイドルの愛莉ちゃんが肝尾なんかに話しかけてる!?しかも下の名前だと!?」
「は!?愛莉ちゃんに名前呼びされるなんて肝尾の奴何様のつもりだよ!?」
いつも通り周りの気色悪い声が聞こえてくる。
どうせこうなるから嫌なんだよ。
やっぱり男どもは馬鹿ばっかだ。
花宮はお前らのことなんかモテ自慢要素としか思ってないのに。
「うわっ…。なんであんなブサイクが愛莉と一緒にいるわけ?顔面に差がありすぎでしょ…」
クソ女がなんか言ってる。
いや顔の悪口はやめろよ…。
俺だって好きでこんな顔してるわけじゃないんだから。
「なぁ花宮、いい加減離れろよ。お前の都合で俺に迷惑かけないでくれ。それにお前の学校での株も下がる…って、花宮?」
気付いた時には、花宮は突然俺の悪口を言っていた奴らの所にいた。
「ねぇ、どうして君たちは拓くんの悪口ばかり言うの?」
え?
「どうして…って、事実を言ったまでじゃん!ブサイクだしキモいしオタクだし!現実見ろよって感じ!」
「そいつ二次元オタクじゃん?現実の恋愛でボロ負けしたから現実逃避してんのが見え見えだよねー!」
「愛莉ちゃんもこんな根暗オタクといるのはやめたほうがいいよ!」
こんな罵言、毎日のように言われてるからもう慣れっこだ。
しかし、花宮は…。
「オタクの何が悪いの?二次元オタクの何が悪いの?私から見たら人の趣味や好きなものを否定してる君たちの方がよっぽど悪者に見えるよ!」
コイツ…、俺の味方を…?
「おい、肝尾!俺たちの愛莉ちゃんに何しやがった!この前愛莉ちゃんを侮辱したこともわすれてないからな!」
「もう我慢できねぇ!お前は一回痛い目見ねぇと分かんねぇみてぇだからな!」
「俺たちの愛莉ちゃんを返せ!」
すると、キモい男どもが俺の所に来た。
何するつもりだ?
まさか…暴力なんて振るわれないよな!?
「何?俺たちの愛莉ちゃんって?私、別に君たちのものじゃないから。勝手にアイドルみたいに扱うのやめてくれない?いい加減鬱陶しいんだけど」
おっと、ここでついに花宮の怒り爆発。
一気に男どもへの不満をぶちまけた。
「あ、はい…。すみません…」
「うぇぇぇん!俺たちの愛莉ちゃんがー!」
「愛莉ちゃんに嫌われた…。もう生きていけない…」
ざまあみやがれ、クソ男ども。
それともう一つ、これだけは絶対に言っておきたい。
俺はさっきの思い込み発言をした女に向かって言い放つ。
「お前、さっきは俺に現実の恋愛でボロ負けしたから現実逃避してるって言ったよな?」
「え…?違うの…?」
「言っておくが……俺は最初から三次元の女なんかに興味はねぇ!なんたって俺はどうしても二次元しか好きになれない生粋の二次元オタクなんだからな!」
ついに言ってやった。
そう…。リアルでこっぴどくフラれたとかそういう経験はなく、なぜか三次元には全く魅力を感じないだけ。
昔からアニメやゲームの女の子にしか興奮できない体質だったのだ。
「は、はぁ?意味分かんない!」
「コイツ…、思ったよりヤバいよ…」
「も…もう行こ!」
俺の悪口を言う輩は去っていった。
「拓くん、大丈夫?」
「俺の味方してくれたんだ…。というか、いいの?あれで大体の生徒敵に回したんじゃないの?」
「うん、大丈夫。だって私、学校一の美女だし!超人気者だし!」
「すごい自信だ…」
でも、なんか吹っ切れた。
正直、これだけは花宮に感謝しないと。
花宮が言ってくれなかったら言い返す勇気が出なかった。
正直見直したかも。
現実の女って悪い奴ばかりじゃないんだ。
現実の女を嫌う男と学校一の美女の話 巫有澄 @arisu1623
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