14

 ムーサを離れて数年。ノールはとある星の空想物質ソムニウム採掘の技師チームに呼ばれ、技師の仕事をしていたという。


 そこで若い採掘師に出会って、装備を一式作ることになった。と。



「……チームにもそこの採掘場の管理者にも一目置かれてたやつでさ。装備一式新調してやってくれって話が来たんだ」


「それ、名前と噂だけは知ってるよ。トルエノ、って名前の子だろ? 若いのに高純度の大きな空想物質ソムニウムを掴み取って、なんでも、星を一つ買ったとか」


 それを成しえるに手を貸したのがノールの装置だった。だから、二人の名前は揃って俺のところにまで届いていたというわけだ。


「星じゃなくて、コロニーな。……戦争で荒廃した故郷の街を再興するのに当てたっていうのが正しい話のはずだけど。そんな風に伝わってんのか」


「どっちにしろ、常人にできることじゃないよ。そういうのは」


 そうだな、と、ノールは苦笑する。


「あいつは確かに、性格は良い、仕事の覚えは早い、運動神経も良い、とにかく色々出来るやつだったよ。故郷の再興のために、そうなるように仕込まれてきたのかもしれないけどな。――まあ、それは俺に関係する話じゃないから詳しいことは知らないけどさ。そのあたり関わらないこと条件に協力した仕事だったから」


 政治だ戦争だ世論だなんだと、難しい話は関わると面倒だからと、ノールは言う。

 ムーサに戻ることになったきっかけも、その星でそっちの動向が強くなったからだとも。


 そういう話に関わることをムーサの技師たちは嫌う人達が多かったから、おれは、技師という職業の人はみんなそういう考えなのかと思っていた。でも、外の星に出ると、技師によってはそうでもないのだと知る事になる。

 おそらく、ノールがいた星ではそうでもない側の技師も多くいたってことだろう。


「でもまあ、トルエノ自身は俺が見ても良い奴だったよ。技師でもないのに装備に関して教えてやればすぐに理解して、俺の作る装置のクセもすぐに掴んでくれたと思う。初動から同調率含めて数値はかなり高いところで安定させてたからな」


 相手に合わせた部分は多くあったけど、それでも高いと思えた。とノールは言った。


「すごいな……。そんな人の装備一式作るってなれば、かなり楽しかったでしょ。貴方は」


 顔も知らない相手を褒めるその姿に、妬くとか以前に、ノールはそういう人だったな、と。おれはそんなところで懐かしさを覚えて、少し笑う。


「楽しくなかった、とは言わないよ。その星はムーサと全然違う環境で制限はかなり多かったけど、この星に無い技術だとか機材や機械にも触れたし、やりがいみたいなのもあったから」


 だけど。とノールも笑った。


「その、お前が噂話で聞いた採掘の後だ。トルエノのやつが言ったんだよ。俺の作る装備は、変なクセがある、って」


「昔から言われてた事じゃない、それ」


「そう。……だけど、あいつはちょっと違うように言ったな」



 ――穴が空いてるみたいだ。と。



「穴……?」


「違和感、とも言ったかな。……負荷がかかるとか動かしづらいわけじゃなく。動かしやすくなってる分、空振りするように思えるところを放置してる。俺なら調整できるはずなのに、わざと組み込まずにいる回路かなにかがあるように思える。そういう意味での変なクセがあるって。……で、それが直ればもっと性能良くできそうだから、試しに変えてみてくれないか、って言われてさ」


 その星の採掘場所では、技師が作る装置を発展させることよりも、採掘師がより多く、より高品質の結晶を得ることを優先させる技術が求められていたらしい。

 だとするなら、技師がこだわりを強めて採掘師の能力が落ちてしまった、なんてあってはならないことのはず。


 けれど、語れば装置のことも理解出来たという相手だ。きっとお互い理解出来るレベルで話し合ったんだろう。採掘師側が違和感と感じるそれを変更して、能力が高まれば言い訳も立つ。


 そこでノールは、何がそう思わせているのかを突き止めて、仮に装置を直してみせたんだそうだ。



「師匠を真似て組んだ部分を俺のやり方に変えて、その星仕様で、作りたいように作ってやったよ。……それを着けていきなり表に出ないことを条件にして、装備を試運転させたんだ」



 そうしたら、トルエノはきっぱりと、ノールに言ったという。


 

「あー! 違和感の原因わかりました! アレって本来の形がこうなんですね。だとするならこれ、僕が着けたらダメなやつです! 断言できます」


 と。豪快に笑いながら。


 

「使えないじゃなくて、着けたらダメなやつってどういうこと。もともとその装備一式はその、トルエノ君、に合わせて作ったんでしょ」


「そうだよ」


 なにがダメなのか。ノールももちろんそれを尋ねた。

 そこで返った言葉というのが。

 


「僕でも動かせるとは思いますよ。基本の回路はそのままみたいだし、それに従えば同調率も悪くない数値で動かせるでしょうね。でも、『僕』では、この装置というか、ノールフェンさん、貴方自身が理想とする完璧なパフォーマンスは引き出せないです。すみません、なんかわかったような事言って貴方に余計な手間をかけさせてしまって」

 


「そこまで言われてやっと気付いた。そりゃ、笑うよあいつも。こっちは、それっきり全然笑えなくなったけどな。じゃあもう、俺は俺が本当に作りたいものが作れなくなったってことじゃないかって」


「何を? なんで……?」



「俺が本当に作りたいものは装置だけじゃない、ヴァルターって男が装備として稼働させて、やっと完成してたんだ……。全部揃えても、大事な機動部が違うから、ダメだった、って話さ」


 クセだの穴だの言われていたそれは、おれの存在だったのだと言って、真っ赤に腫らした眼を向けてノールはやっとおれを見た。



「え、おれ?」

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