12
海が包む星、惑星ムーサ。この星の空港も、もちろん海面下にある。
空港近くの浅いところにある街では、居住している採掘師たち向けの店や施設よりも、一時的に水の補給に訪れる船とその乗員乗客をもてなす、いわゆる観光客向けな店が多い。
よそ向けの顔を見せるそれらを横目に通り過ぎ、さらにムーサの一般的な住宅区域を抜け、おれたちが昔いた底部の街へ向かう潜水艇に乗り込むと、おれは真っ直ぐ技師街へ向かって降りていった。
昔、ノールの住居は工房とは別にあった。工房に籠もりきりになる日が増えて寝泊まり出来るスペースを作ってからは、帰る事も稀になったくらいの場所だ。
そんな部屋なら間違い無くこの星を離れるときに引き払っていているだろうから、戻ってから新しい部屋を見つけているかもしれない。そうでなくても、技師仲間や頼れる人のところに転がり混んでいる可能性だって否定できない。上層にあるホテルにいる可能性もだ。でも何故か全部、そんな場所じゃないと思えた。
あの人が頭が回らないほど酔い潰れて、感情にまかせて妙な事まで言い出せる場所なんて、この星で思い当たる場所はひとつしかない。
そこを手放してさえいなければ。
急ぐ足は気付けば走り出していて、封をしてきた記憶が覚えていた道をそのまま辿っていた。
「……工房はそのまま残しておいたんだね」
技師街の片隅にある、ノールの工房。おれとノールが初めて会った場所で、何度も通い詰めて、何日も共に過ごした場所。
だからこそ、ここは避けていたはずなのに。結局ここに戻るのか。
おれは息を整えるのに息を吐く。機材は眠っているようで静かな室内に靴音と呼吸の音がやけに大きく響いた。
「一応俺が所有してるところだからな。……手放すってなれば機材ごと誰かに譲るか処分ってことになるし。それはまだ気が乗らなくて、持ち出すにも面倒だったから、そのままにしてただけ」
通話から一日半。突然と言えるくらいには短時間で現れたおれを複雑な顔で出迎えたノールは、掠れた声でそう言った。
「そっか……」
「お前、は。なんか、たくましくなったな。採掘以外の仕事も、始めたんだっけ?」
「うん。貴方は……。なんか、最後に見た時よりやつれてる気がするね」
どうして。と見下ろす眼は、少し赤くなっている。触れて良いものか少し迷って、押し殺すより行動に出た。
指先で触れると、乾いた頬は、温かいのに冷たくて固くなっているように思える。
「ノール。貴方ちゃんと寝てないだろ。それとも泣いてた? 目元ガサガサじゃないか」
「……っ、なんで、戻ったんだよ。あんなの消せって言っただろ、真に受けたのか?」
「真に受けたわけじゃ無いって。本当はここに戻るつもりは無かったんだよ。……貴方もここから離れたって言うし、もうおれはここにも貴方にも必要無いと思ってたからさ」
戻れないと思っていたんだ。おれは。そう告げてから、自嘲した。
「でもさ、あんなメッセージ貰って、貴方のことを放って置けるほどでは、まだ、なかったみたいだ」
何があったの。と問いかけて、抱きしめてもいいのだろうか。頬に触れた手を引っ込めて、どうしたものかと迷う指先を、ノールが引き寄せた。
「!」
「必要なく、ない。ずっと。あいたかった。……お前に」
とうとう堪えきれなくなったのか、ノールはおれに抱きついて泣きだしてしまった。
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