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おれはその後、ムーサから離れた昔の仲間のツテを頼りに、短期間ではあったけど小規模な採掘の仕事についた。そこからさらに採掘だけにこだわらない別の仕事を探し、ムーサのようにそのままではヒトの住みづらい環境の星にドーム型の街を作る仕事や、さらには
やってみれば出来ないことはなくて、それぞれに苦もあれば楽もあることを学んだ。
ムーサ以外の星についても知る事ができたし、今後の目標とでもいうのか、そんなものも昔と比べたら現実的に掴み始めて、そこへ進むためにもあの星のことを過去のことにしようとしていた、その矢先。
「……ホント。どういうつもりなんだろうな。あの人は」
過去の思い出から意識が現実に戻って来ると、空港の外はすっかり夜空に変わっていた。室内の明かりが白くガラスを照らす中に、あれほど混雑していた人混みはもういない。
手にした端末には、磁気嵐の影響か超長距離通信不可のマークが点灯していた。
問いかけようにも向こうからの連絡を待とうにも、どうせ何も出来ない状況だ。
キャンセルの手続きは終わったんだろうか。促すアナウンスも今は聞こえない。
どの道、もうこの日のうちに動く船は無いかもしれないと、搭乗便の予定変更をするためにおれが椅子から腰を上げたときだった。
空港内のアナウンスが再開された。
「お客様にお知らせいたします。磁気嵐の影響で停止しておりました当空港からの離発着便ですが、磁気嵐が弱まって来たことを確認できたため、以下の便から運行を再開いたします。該当する便名は……」
ああ、動いたんだなと。おれは意識をそちらに向けた。耳に届く中にあった便名に、乗るはずだった船の名がある。なら、あとは手続きを済ませて乗り込んでしまうだけ。
だというのにおれは、また視線を、手持ちの端末に何故か向けてしまっていた。
そこで、機械と眼が合った。
そんな感覚は、後にも先にもこの一回だけだと、おれは思う。
何も映さない端末に視線が落ちて、逸らそうとしたそのコンマ何秒の瞬間。行くなと言わんばかりに、呼び出し音がおれを呼んだんだ。
「!」
驚いて誰とも確認しないまま、おれはあわてて音声通話の許可をオンにした。
誰、なんて、たぶん問わなくてもわかっていたのかも知れないけど。
「あっ、よかった、やっとつながった、あのなっ!」
低くて丸い、少し掠れた懐かしい声が、耳に届く。途切れ途切れに聞こえるのは、通信状況が悪いせい、というわけじゃないだろう。
「さっきの、やつ、だけどっ、音声入力が」
「……要件言うなら、せめて名乗ってからにしようよ」
「う……っ」
共に過ごした時間と同じくらいの時間、離れていたはずなのに。
「わかってる。ノールだろ? ……ところで貴方、今どこにいて何してるの」
忘れることなんてできないんだなと、ただそれだけで思い知る。
通話の向こうで、ノールはしばらく前に惑星ムーサに戻ったと話していた。他の星での仕事が一旦止まって時間ができたから、と短めに。
「……さっきのメッセージ、な。ごめん、今酔ってるもんだから、頭回らなくなってて。本当にごめん。忘れてくれ」
気にしないで。消してくれ。と、無理な要求を残してノールは通話を切った。
「いや、気にするなって言われても、気になるだろこれは……」
黙ってしまった端末をじっと見つめているだけじゃ、事は何も進まないから。おれは諦めて空港の窓口へと足を向けた。
「運行可能になってる便でも、キャンセルってまだ出来ます?」
窓口対応の返答は、もちろん。と明るい機械音声。
「それから、急ぎで悪いんだけど、今日中にここを出て惑星ムーサまでのチケットを取りたいんだ。出来れば最短で行くやつ、あったら一人分お願いします」
その問いにも、機械音声は、そちらももちろん可能ですよ、と明るく応えてくれた。
ルクススの空港まで直行し乗り換えて、ムーサまで。
この星から出発してそのルートなら所要時間は三十六時間以内で行けるという。
直行便は高く付く船になるけど、そんなことは今は気にしていられない。
チケットを取ると、まずはルクススまで向かった。
その航路でほぼ一日を費やし、懐かしさと、もの悲しさと、少しの緊張を抱えて、船を乗り換え惑星ムーサへ向かう。
そこまで来ておいてもまだ、足取りは重い。一歩踏み出すごとに、感じるはずのない痛みまで感じるようだった。
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