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ノールの調整する装備を得てからというもの、おれは格段に
親方の伝手で、採掘師とその専属技師を束ねて仕事の調整や補助なんかを行ってくれる組合と、そこと繋がりのある中でも比較的良心的な引き取り先とも契約を結べた後はさらに暮らしも良くなった。
そりゃあ下働きに比べたら仕事は厳しくて辛いと感じる事も増えていたけれど、それだってやりがいのうちだ。
そうして、親方やノールのお師匠さんの助けも借りつつ、組合(ギルド)とも連携を取れるようになって、おれたちは何とか二人でやっていけるまでに成長した。
大きな進展があったのは、チームを組んでから二年が過ぎた辺りだったか。
「他のチームが掘り残して放棄したところとか、探れずに放置したあたりは粗方探り終えたってところか」
ノールの工房。休憩室を兼ねたコンソールルームの一角。
チームを組んだ記念に二人で買ったソファに並んで腰掛けて、頭を突き合わせて、時に機嫌良く、時に真剣に、次に採掘へ向かう区域を絞る。
その頃仕事仲間に、お前達は距離が近い、とか言われてたところは否めない。
でもまだその時は、仕事以上に特別な何かがあるという関係ではなかった。それはそのままで居心地は良かった気はしていたけど。そうでもなくなったのも、確かこの頃だ。
「そうだ。装備の方はどうだ。使いづらい、とか、気になるところ出てないか?」
「ううん。今のところ不調も不満も無いよ」
おれはノールの作る装備一式には言った通りに不満は無かったし、その頃には愛着もかなりできていた。多少思い通りにならない部分があっても、それを含めてノールの技術には尊敬を感じていたくらいだ。
だからそれを偽りなく伝える事に抵抗はなかった。
「……というか、慣れてきたとこもあるから、むしろ貴方が変えたいところがあるなら変えてみて欲しいかな」
「え、いいのか? そう言うなら、俺、本気で変えるぞ?」
それを伝えるたび、ノールの表情が嬉しそうに変わるのを見るのも好きだったから。
そこで、装置だけじゃなく、技術だけでもなく、それそのもの。制作者に対しての強めな感情も含まれているとはっきり意識したんだと思う。
「うん、おれはそれに合わせてやってみたい。最近、結構楽しくなってきてるんだ、貴方の作る装置のクセと向き合うの。こんな複雑な装置に付き合えるのもおれだけだぞー! なんて誇らしかったりするんだよ。……それが掴めたら、貴方ともっと近づけた気もするし。ね」
「……っ!」
わざとらしくそんな事を言葉に混ぜてみるとわかりやすく照れる顔も、好きだなと思えて。
「それなら、少しいじりたいところがあったから、そこ、変えて、みるよ」
脈なしというわけじゃなさそう、ではあったから余計に、距離感が近づいていたんだと思う。
「お願いします。――あ、でも、採掘箇所について言えば、あとはもう少し深く潜るか、街から遠い別の海域まで移動するか、しかないみたいだ。チーム組んでる以上は他人の掘ってる鉱脈には触れないから。……だけど」
「なに。だけど?」
「どっちも、当たらなければ損がでかいと思う。今のチームの予算じゃ、できても一回か、二回ってところだろうって組合の調査船担当者が言ってたから」
「そっか、遠出するにしても深部に潜るにしても、いつもと違う船出さなきゃならないもんなぁ。あいつら借りるの結構高いんだっけ……」
「ああ、あとね、その船、金額もそうなんだけど。今そっち系の船がまとめてメンテナンス中でさ、すぐって訳にもいかないんだって。まだ何日かかかるらしいんだ。それが終わればすぐ出せるって言ってる」
「なら、それまで待機か」
「そうなるね」
ノールとこうして一緒に先を考えて進めていく毎日は、複雑な感情を抜きにしても楽しかった。
そういう中で、少しだけ先に動いたのは。仕事よりも、関係性の方だったか。
「じゃあ、俺は装置のメンテナンスを……」
そう言って早速仕事モードに切り替わろうとするノールの手を取って、引き留める。
「ねえ、ノール。貴方が仕事と趣味を両立させて装置に向き合う方が好きなのは否定しないよ。だけどさ、ちょっと息抜きする気はない?」
「息抜き? 何すんのさ」
「遊びに行こう、ってこと。――丁度今夜、ルクススまでの船が出るんだ。帰りはこっちの時間で明日の早朝になっちゃうけど」
おれは手を差し出して、誘いをかける。
ルクススは惑星ムーサから最も近い、ハブ空港を持つ都市型の人工衛星都市だ。大企業のオフィスから、娯楽施設、同じ銀河の中から集められた珍しい品を取りそろえた有名な店舗がひしめき合う。ムーサの『人魚』たちも憧れる、大きくて眩しい賑やかな星のひとつ。
そんなの他の誰かと行けば良いとか返されるかもしれないと、内心不安を抱えながら、おれは問いかけた。
「どう、かな……」
ノールは悩んでいるような、困っているような、そういう表情だった。こっちはこっちで焦りとか不安とか、多少の下心みたいなものが顔に出ていたと思う。
嫌なら断ってくれてもいいんだと付け足して促すと、ノールは躊躇いがちに答えてくれた。
「ま、お前がそう言うなら、付き合っても良いよ。……一晩だけならな」
「!」
手を取られて、舞い上がったのは言うまでも無い。
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